乳腺外科
診療科の紹介
乳腺外科では、「正確な診断・適切な手術、EBM(科学的根拠)に基づいた全身治療、新規抗がん剤の導入、臨床試験への積極的な参加」をモットーとし、より質の高い医療を提供できるよう日々努力しています。より効果が期待でき、QOLを損なわない新しい治療(抗がん剤や手術法など)を開発するために、患者さんのご協力を得て積極的に臨床試験(治験)を行っています。
治療方針
早期診断治療
初めて受診された患者さんは、診察前に乳房のレントゲンを撮って頂き、診察室で医師が乳房の超音波検査を行いますのでその場で直ぐに検査結果の説明が受けられます。必要な場合には細胞診検査(しこりに細い注射針を刺して細胞を採取し、顕微鏡で細胞の良悪性の判定を行う)を行い、一週間以内に結果を説明致します。細胞診でも診断が困難な場合は、MRI検査や針生検を行い、極力患者さんに負担のかからない方法で正確な診断を行います。
診断がついてから手術日まで概ね1ヶ月以内です。手術を受ける患者さんは、クリティカルパス(入院治療計画)に基づき1週間前後の入院となります。手術前に化学療法を行う場合は、外来化学療法室で点滴治療を行いますので、基本的に入院は必要ありません。期間は約6ヶ月です。
手術治療法
早期乳がん(しこりが2cm以下・リンパ節転移なし)の患者さんに対しては、積極的に乳房温存療法を行っています。乳房温存療法は、乳房の部分切除と術後の温存乳房に対する放射線治療から成り立っている治療法で放射線治療部と協力して行っています。しこりの大きな患者さんに対して、手術前に抗がん剤を投与してしこりを小さくしてから乳房温存療法を行う場合もあります。
また、手術中にセンチネルリンパ節生検を行い、リンパ節の切除を必要最小限にすることでリンパ浮腫など、手術後の合併症の予防にも努めています。
早期乳がんに対するラジオ波焼灼療法(RFA)について
2023年12月1日に早期乳がんに対してラジオ波焼灼術が保険収載されました。
これを受け、千葉県がんセンターでは2024年1月より、早期乳癌に対して保険診療でRFA治療を開始いたします。
ラジオ波焼灼療法(RFA)とは?
超音波で確認しながら、乳癌のしこりに電極針を挿入し、70度以上で10分程度腫瘍を加熱することで、がん細胞を凝固壊死させる(熱により死滅させる)治療です。
標準的な手術と異なり、乳房に切り傷や大きな変形が残らないという特徴があります。
RFAの適応
現在、RFA治療の対象となる患者さんは、下記の条件を満たすステージI以下の早期乳がんの方のみです。
- 腫瘍の大きさが1.5cm以下で、病変部が乳房内の1か所に限局している
- 乳房造影MRI検査の結果、乳房内に病気の広がりが認められない
- 画像上明らかなリンパ節転移を認めない
- 遠隔転移を認めない
- RFA治療後に通院での乳房放射線治療を受けることができる
★治療後3カ月目の乳房造影MRI検査および吸引式針生検によるがん遺残の確認は、乳がん再発の危険性を極力減らすために、必ず受けていただく必要があります。
RFAの治療成績
2006年から2011年の約5年間に当施設独自の臨床試験に参加された2cm以下の乳癌34例において、10年間の全例経過観察で2例に温存乳房内再発を認めましたが、乳癌死亡例はありませんでした。
2013年から開始された先進医療Bにおける多施設共同臨床試験(RAFAELO試験)に参加された1.5cm以下の乳癌370症例において、平均観察期間5年では2例に温存乳房内再発を認めました。最終解析の結果は2024年中に報告される予定です。
《重要》よくある質問についてご説明します
- ・RFA治療を行う際には全身麻酔が必要です。通常の乳房部分切除術と同等の入院期間を要します。
- ・手術中にわきの下のリンパ節の転移を調べる「センチネルリンパ節生検」を同時に行います。その場合、わきの下には3-4cmの切り傷が残ります。
- ・乳房のしこりは摘出しないため、RFA治療の後にも乳房内にしこりは残ります。多くの場合、RFA治療後には直径3cmほどのしこりが残るため、手術の前よりもしこりのサイズが大きくなったと感じる場合がありますが、経時的に縮小していくことが多いです。
- ・手術の後には、乳房に放射線治療を行う必要があります。
- ・RFA治療により十分にがんが死滅したかどうかを調べるために、温存乳房への放射線治療終了3か月目ごろに、乳房造影MRI検査を行い、さらにRFA治療を行った部位に対し吸引式針生検で癌が完全に死滅したかどうかの顕微鏡での確認を行います。この際にがん細胞が遺残していた場合、再度手術を受け、病変部を取り除くことを推奨します。
- ・手術後の全身薬物療法については、術前検査で行った針生検や画像診断の結果などに基づいて行います。RFA治療を選択したから、手術を受けた場合と比べて術後薬物療法の内容が軽くなったり、省略されるということはありません。
★ご自身の乳癌がRFA治療の対象になるかどうかは、外来担当医とよく相談してください。
国立がん研究センター中央病院のWEBサイトもご参照ください。
薬物療法
乳がんの薬物療法には、抗がん剤による化学療法、ホルモン製剤による内分泌療法および分子標的治療があります。腫瘍の縮小や、再発予防、再発がんの治療に効果をあげています。それぞれの患者さんの病状に応じて科学的に再発予防効果が証明されている化学内分泌療法を行うことによって一人でも多くの患者さんが完治されることを目指しています。術後補助化学療法は、腫瘍・血液内科が担当し、患者さんは外来に通院しながら外来化学療法室で日帰りで治療を受けていただきます。
患者さんの病状に適した治療法を提案し、患者さんやご家族と相談の上選択できるよう密に関わっています。
標準治療の考え方
当科は日本の乳癌診療ガイドラインに準拠した治療方針を採用しています。しかし、一部に海外のガイドラインに準拠した治療を当科の標準治療としている治療もあります。
例えば、日本のガイドラインでは乳癌のリンパ節転移があり術前化学療法を受けた場合、全員に腋窩リンパ節郭清術を施行することを推奨しています。海外のガイドラインではリンパ節の治療効果を認めた場合はセンチネルリンパ節生検を考慮しています。当科では、臨床試験に参加された約50人に対して術前化学療法の後に施行されるセンチネルリンパ節生検の妥当性を確認してきました。その経験から海外のガイドラインと同様にリンパ浮腫を回避するため、術前化学療法により治療効果を強く認めた場合に限り、センチネルリンパ節生検を採用しております(2021年9月より)。
主な治療のご案内
治療案内
乳房部分切除+センチネルリンパ節生検 | 入院 | 5~7日 (術前2日+術後2~4日) |
---|---|---|
乳房全摘+腋窩リンパ節郭清 | 入院 | 8~10日 (術前2日+術後6~8日) |
- 乳房再建についてお知りになりたい方は形成外科「乳房再建」を参照してください。
- リンパ浮腫についてお知りになりたい方は形成外科「リンパ浮腫」を参照してください。
診療実績
医師のご紹介
乳腺外科部長
中村 力也(なかむら りきや)
平成11年広島大学医学部卒
【指導医、専門医、認定医など】
- 日本外科学会 認定医・専門医・指導医
- 日本乳癌学会 認定医・専門医・指導医・評議員
- 日本臨床細胞学会 専門医
- 日本超音波学会 超音波専門医
- JBCRG 利益相反委員会
- 日本乳腺甲状腺超音波医学会 評議員
- 乳癌診療ガイドライン 小委員会委員
- 千葉県乳腺診断フォーラム 代表世話人
【専門分野/得意分野】
- 乳がんの診断、治療
医長
羽山 晶子(はやま しょうこ)
平成20年滋賀医大医学部卒
【指導医、専門医、認定医など】
- 日本外科学会 専門医
- 日本乳癌学会 認定医・専門医
- 日本超音波医学会 超音波専門医
- マンモグラフィー検診精度管理中央委員会認定読影医
【専門分野/得意分野】
- 専門は乳がんの診断、治療
医員
年光 亜水(としみつ あみ)
令和2年日本大学卒
【指導医、専門医、認定医など】
【専門分野/得意分野】
- 乳がんの診断・治療
医員
山﨑 美智子(やまざき みちこ)
令和3年千葉大学医学部卒
【指導医、専門医、認定医など】
【専門分野/得意分野】
- 乳がんの診断・治療
非常勤医師
吉村 悟志(よしむら さとし)
平成29年千葉大学医学部卒
【指導医、専門医、認定医など】
【専門分野/得意分野】
- 乳がんの診断・治療