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更新日:令和6(2024)年2月19日

ページ番号:5984

(大多喜町)城山をさまよう武者の魂

内容

夜中の十二時過ぎ、大多喜城のふもとにさしかかった。横(よこ)なぐりに吹いていた風が止んで、霧が動けなくなった。
人影だ。こんな夜ふけにだれだろう。肩をいかつく張り出して、ノッシ、ノッシと歩いている。ガシャ、ガシャ、金属音がする。思わず、車を止めた。

道路を横切り、やぶの中を城に向かっている。泥に汚れた鎧(よろい)。鎧の紐(ひも)も帷子(かたびら)も切れ兜(かぶと)もかたむいている。武者だ。草鞋(わらじ)が濡(ぬ)れている。血だ。
何か唱(とな)えている。耳をすますが聞き取れない。
ワー、ワー、ワー
低い声が霧に消えていく。三十人くらい道を横切っただろうか。霧の中に消えて行った。
背筋が凍(こお)った。夢なのかもしれない。夢でないのかもしれない。あの、鎧を着た武者は何だったのだろう。もしかして幽霊(ゆうれい)。自問自答(じもんじとう)しながらエンジンをかけ、車を出した。

翌朝、家族に「おれは夢を見たのかな・・・」と昨夜の話をした。すると、
「夢に決まっているべえ」
と笑って、相手にしてくれなかった。しかし、今年九十四歳になる爺(じい)さんが言った。
「見たか・・・今も出るのかな・・・夢でねえ。おめえが見たものは、むかし戦(いくさ)で死んだ武者たちだ・・・」

「城山(しろやま)は古戦場(こせんじょう)だ。何百、何千の兵がこの城山で戦った。そして死んでいった・・・その死んだ武者の魂(たましい)が山をさまよっている。・・・風の吹く夜、雨の降る夜に城山をさまよい歩く魂の声を、昔聞いたことがある・・・。助けてくれー、助けてくれーと叫ぶときもある。時には、若者が父母を叫ぶ声も聞いた・・・。それは胸に突き刺さる声だった。・・・この城山をさまよい歩く武者の魂を鎮めようと小さな社(やしろ)をつくってから、武者の姿も声もおさまったと思っていたが・・・今も、城山には武者の魂がさまよっているのだなあー」

爺さんは、静かに話してくれた。
城のふもとの駐車場には、さまよい歩く武者の魂を鎮めるために、小さな社(やしろ)が建っている。

おしまい

 

出典・問い合わせ先

  • 出典:「広報おおたきNo.431」(ふるさと民話さんぽ:斉藤弥四郎)
  • 問い合わせ先:大多喜町外部サイトへのリンク

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