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更新日:令和4(2022)年11月7日

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「魂のBCMと呼ばれる理由」(第1回)

BCP(business continuity plan事業継続計画)とは、大震災・風水害・感染症等の緊急事態発生時に、損害を最小限にとどめつつ、事業継続・早期復興ができるよう、平常時に行うべき活動や緊急時における対応方法・手段等を決めておく計画のことです。そして、事業継続の取組をBCM(business continuity management事業継続マネジメント)と言います。
今回、千葉県旭市に工場を持ち、東日本大震災の経験を活かしてBCPを策定し、東京都の「BCP策定最優秀賞」も受賞された大成ファインケミカル株式会社の稲生代表取締役社長から、危機管理産業展2015にて講演された事業継続の取組内容を、特別にコラムとしてまとめてくださったものを掲載します。

第1回:大成ファインケミカルの事業継続の取組の特徴と考え方

大成ファインケミカル稲生社長

 

大成ファインケミカル株式会社代表取締役社長
稲生豊人

 

 

(1)当社の事業継続の特徴

当社のBCMの取組は、経営トップから現場まで、全従業員の気持ち、魂が入っていることが最大の特徴です。そのため、「魂のBCM」と呼ばれたり、東京都中小企業BCP策定推進フォーラムで最優秀賞を受賞できたのだと考えています。

(2)大成ファインケミカル株式会社について

大成ファインケミカル株式会社は、大正14年に創業した大成化工のグループ企業で、溶液型アクリル、ウレタン樹脂及び、その複合材料の製造・販売を行っています。例えば、スマホやタブレットなどの液晶画面に使われる部品なども作っています。千葉県内で唯一東日本大震災で死者が出た旭市に工場を持ち、東日本大震災では被災しました。他に、新小岩に営業所と開発の拠点があります。

(3)どこから事業継続に取り組むか

旭市は、大規模地震が起きれば津波の心配があり、営業所と開発拠点がある新小岩は、荒川と中川に挟まれた海抜ゼロメートル地帯で大雨、洪水時に水没の危険性がある地域です。このように、事務所によってリスクの要因も大きさも全く異なるので、リスクアセスメントをした上で、どこから手を付けるかを判断するのも一つです。

当社では、まず技術部門以外の総務管理部門から取組をスタートしました。企業によっては製造部門からというところもありますが、当社は70名程度の会社であり、ヒト・モノ・カネ、どれが欠けても事業継続はできません。未来投資である技術部門を後回しにして、まずは現在の事業の担い手である総務管理部門から取組をスタートさせました。

(4)事業継続の取組に不可欠な考え方

事業継続の取組が生きたものになるためには、次の点が欠かせません。
(1)まずは、経営トップ層が自社のリスクと社会的責任に対して高い意識を持つこと。
(2)そして、会社として実行していくために、事業継続をシステムとして落とし込まなければいけない、ということです。
事業継続にかける手間を可能な限り省力化するのです。具体的には、当社では以前から生産性の向上を図るために改善活動を行っており、そこに落とし込んだり、ISOの仕組みなども利用します。事業継続の取組を通常のシステムに組み込んで実施しているのです。
(3)そして何よりも重要なのは、現場全員の意見を聞いて取組み、カイゼンにつなげていくことです。

(5)なぜ事業継続に取り組もうと思ったか

当社では、東日本大震災が起こる以前の2009年からBCPを作りたいと、私が言っていました。様々な社会環境・自然環境の変化に対応するために「企業が事業継続できること」が必要だと感じていたからです。例えば、企業としての株主への説明責任、従業員・取引先・地域に対する責任。労働安全の観点、自然災害の甚大化の傾向、事業や技術の継承問題、社内のこれまでのカイゼン運動の行き詰まりなど、様々な経営的な観点から取組の必要性を感じていました。

ところが、理念先行で現場には浸透せず、取り組みはまったく進みませんでした。今のように、会社全体で事業継続に取り組むには、考え方や取り組み方に大きな転換が必要だったのです。

(6)本格的な取組の契機

その契機となったが東日本大震災です。

震災の前年末ごろ、ISOの品質管理でパトロールをしていたときに、ドラム置き場が危ないと感じて、ストッパーをつけるように指示しました。そのストッパーが完成したのが2011年3月7日。そして、3月11日に震災が起きたのです。T君という従業員が私のところに来て、「稲生さんのおかげで助かりました。当時現場にいて、動けませんでした。ストッパーがなかったら死んでいました。」と言うんです。私はストッパー取り付けを指示したことで、一生の後悔をしないで済みました。

これをきっかけに、事業継続の取組で従業員の命が守れるということが現場に伝わり、取組が劇的に進みました。現在も毎年訓練を続けていますし、現場は自分から動くようになってきました。

(7)原点にたち帰ることで現場に浸透した事業継続の取組

当初考えていた頭でっかちの私のBCPでは現場の従業員に響きませんでした。しかし、震災を契機に、原点にたち帰ることで、現場に伝わりました。
(1)まずは従業員の命を守ること。
(2)その次に職場を守ること。
(3)そして、現場の意見を聞きながら事業継続の取組を経営強化に活かしていくこと。

この順番でないと現場には伝わらないのです。

 

次回は、「東日本大震災の経験と、具体的な取組」について、掲載します。

 

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