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更新日:令和5(2023)年8月17日

ページ番号:343551

シクラメン栽培における夏季の低コスト高温対策技術

1.はじめに

本県の鉢花の主力品目であるシクラメンは、夏季の高温により生育・開花遅延や病障害が発生し、品質低下や商品化率の低下(ロス率の増大)を引き起こす場合があります。そのため、夏季の冷房について興味を持っている生産者は多いものの、粒径が細かい細霧冷房は10アール当たり100万円以上と高価であるため普及が進んでいません。そこで、10アールあたり30万円程度で導入可能な簡易ミスト冷房の効果を確認し、併せて日中の温度がシクラメンの生育に与える影響及び病害発生リスクについて調査をしたので、紹介します。

2.設置方法

比較的低い水圧でも粒径30~90マイクロメートル程度のミストを噴射できるノズルをベンチから1.6メートルの高さに2メートル間隔で設置し、ポンプ等を接続することで、簡易ミスト装置を設置できます(図1)。簡易ミスト装置稼働中は循環扇や工業用扇風機等により施設内の空気を循環させ、温度ムラを少なくします。

 

図1

図1.簡易ミスト装置の模式図と実際の接続の様子

注1)1:ポリエチレンパイプ、2:フィルター、3:ポンプ、4:スマートリレー、5:スイッチング電源、6:電磁弁、7:加圧タンク、8:ミストノズル
注2)ノズルは通路上のなるべく高い位置に2メートル間隔で設置する

3.簡易ミスト冷房の効果

ハウス内気温が30度を超えた晴天時(平成30年8月1日)に、8時30分から15時30分まで5秒ミスト散布・インターバル20秒で簡易ミスト冷房を実施すると、屋根全面を遮光した(遮光率50~55%)だけで簡易ミスト冷房を実施しなかった慣行区と比較して、遮光せずに簡易ミスト冷房のみを実施した無遮光+ミスト区、午前は東側のみ遮光、午後は西側のみ遮光しつつ簡易ミスト冷房を実施した弱遮光+ミスト区は、日中のハウス内気温を低く抑えることができました(図2)。また、8月1日から8月10日までの日平均気温は、慣行区(遮光のみ)が32.3度であったのに対し、無遮光+ミスト区は31.3度、弱遮光+ミスト区は30.6度と高い冷房効果がありました(表1)。

図2

図2.平成30年8月1日の無遮光又は弱遮光+ミスト区と慣行区のハウス内気温

注1)遮光及び簡易ミスト冷房はハウス内気温が30度を超えた場合に実施した
2)温度センサーはハウス中央の通路に地面から1.5メートルの高さに設置した

 

表1.簡易ミスト冷房実施期間の旬ごとのハウス内平均気温表1

注1)簡易ミスト冷房実施期間:平成30年7月20日~9月9日
2)旬毎に日の出から日の入りまでの平均気温を示した

4.ミスト噴射量と病害発生リスク

簡易ミスト冷房は細霧冷房(ドライミスト)と比較するとミストの粒径が大きいため、植物体に届くまでに蒸発しきらず、ミストノズル付近の植物体は濡れるものの、ハウス内の空気を循環させることで、ミスト装置停止後、日没までには乾燥させることができます(データ省略)。

散布方法を、ミスト散布30秒・インターバル30秒とした強ミスト区と、ミスト散布10秒・インターバル20秒とした弱ミスト区を比較した場合、強ミスト区では「改良シュトラウス」及び「ビクトリア」では高温期の過湿が原因で発生する芽腐細菌病などの病害が疑われる塊茎内が褐変した株が多くなるため(表2)、弱ミスト区にならい、ミスト散布10秒に対しインターバル20秒以上の設定が必要と考えられます。

表2.ミスト散布方法の違いと品種ごとの塊茎内が褐変した株数

表2

注1)ミスト散布方法:強ミスト区:ミスト散布30秒・インターバル30秒、弱ミスト区:ミスト散布10秒・インターバル20秒、慣行区:ミスト散布なし、いずれの区も屋根全面を遮光
2)ミスト散布期間:平成29年7月26日~8月30日
3)調査日:「ビクトリア」11月27、28日、「ハイライト」11月29、30日、「改良シュトラウス」12月1日
4)調査株数:各品種8株

5.簡易ミスト冷房のシクラメンへの影響

簡易ミスト冷房と弱遮光により、遮光のみの慣行区に比べ、株幅及び草高が小さくなり(表3)、徒長対策として利用できます。また、開花数は少なくなる傾向がありますが、株サイズに対する葉及び花のボリュームは十分確保でき(写真1)、開花も早めることができます(データ省略)。

表3.出荷期のシクラメン「改良シュトラウス」(5号鉢)の草姿及び品質に与える影響表3

注1)試験区の構成は図2に同じ
2)1区10株とし、株幅、株高、草高は11月27日、残りの項目について12月13日に調査した
3)分散分析の結果:ns:有意差なし、*:有意差あり(p<0.05)、**:有意差あり(p<0.01)
4)異なるアルファベット間にはTukey-Kramer法により有意差あり(p<0.05)

 

写真1

写真1.出荷期のシクラメン「改良シュトラウス」(5号鉢)の草姿に与える影響(平成30年11月27日)

注1)左:慣行区、中央:無遮光+ミスト区、右:弱遮光+ミスト区
2)試験区の構成は図2に同じ

6.簡易ミスト冷房の導入コスト

簡易ミスト冷房の導入コストは10a当たり20~30万円であり(表4)、既存のドライミスト等と比較して3分の1以下となります。

表4.簡易ミスト冷房導入コスト(間口9メートル、奥行き57メートルのハウスの場合)

表4

注1)水道圧が高い場合にはポンプは不要のため、8、10を除いて導入コストを試算する
2)連棟ハウスの場合には1~6の資材を増設することで対応可能
3)その他、電線、循環扇等が別途必要
4)金額は税抜き価格

7.留意点

簡易ミスト冷房を利用する際には、循環扇等によりハウス内空気を循環させ、また、高温期の高湿度条件で発生が増加する病害を徹底して防除する必要があります。その上で、植物体の濡れが気になる場合は、ハウス内温度を確認しつつ、ミスト散布時間を短縮するかインターバルを延長する、ノズル設置位置を高くする、簡易ミスト装置の稼働を晴天時に限定する等の対策が考えられます。
また、ミストに利用する水によっては、葉が白く汚れる可能性があるので、気になる場合は水道水や雨水の利用を推奨します。

8.おわりに

近年は、本県においても猛暑日が続くなど異常な夏の暑さに見舞われ、特に施設内では、換気や遮光を行っていても、植物が健全に生育できる温度帯を超える日が多くなってきています。今回紹介した方法は今までのドライミストに比べ、安価に日中のハウス内気温を下げることができます。上手に活用してシクラメンの暑さ対策に役立てていただければ幸いです。

初掲載:令和2年5月
農林総合研究センター
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研究員室田有里
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