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更新日:令和5(2023)年2月13日

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ニホンナシの害虫ハダニ類に対する天敵カブリダニ類を活用したIPM防除

1.はじめに

ナシ栽培では、害虫ハダニ類による葉の加害が問題となります(写真1)。ハダニ類は梅雨明け頃から新梢上で急激に増加して、被害が激しいと葉の黒化や早期落葉の原因となるため適切な防除が必要です。特にナミハダニは各種殺ダニ剤への感受性低下が認められており、薬剤に依存した防除が難しくなってきています。そこで、ナシ園に発生する天敵生物を上手に利用した総合的病害虫・雑草管理(IPM)技術に期待が寄せられています。 

写真1

写真1.主なハダニ類の雌成虫
(左:ナミハダニ、右:カンザワハダニ)

2.害虫ハダニ類の天敵カブリダニ類

IPM防除体系では天敵生物の活用が重要なポイントになります。ハダニ類に対してはカブリダニ類(写真2)が主要な天敵です。カブリダニ類はハダニ類と同じダニの一種ですが、ハダニ類が植物だけを食べるのと異なり、カブリダニ類はハダニ類等の微小な節足動物も捕食することができます。花粉など植物質の餌も食べますが、基本的に植物に対しては害を及ぼしません。

カブリダニ類雌成虫の体長は約0.4ミリメートルとハダニ類よりも小さいため目視による観察は難しいです。しかし目には見えないものの、多くのナシ園では従来から生息している土着のカブリダニ類が発生しており、ハダニ類が発生した場所に定着してハダニ類の密度を低く抑えてくれています。

写真2

写真2.主な土着カブリダニ類の雌成虫
(左:ミヤコカブリダニ、右:ニセラーゴカブリダニ)

3.カブリダニ類が定着しやすい環境を整える

(1)殺虫剤の選び方

カブリダニ類を活用する際、最も注意すべきポイントは「どの殺虫剤を用いてハダニ類以外の害虫を防除するか」です。基本的には、ナシで使用可能な殺虫剤をカブリダニ類に影響の少ない選択性殺虫剤と、カブリダニ類を含む多くの微小生物に影響を与える非選択性殺虫剤(CYAP水和剤等の有機リン系やビフェントリン水和剤等の合成ピレスロイド系など)とに大きく分け、それぞれを適切な時期に使用する必要があります。

選択性殺虫剤としては、チョウ目害虫に対するBT系、フルフェノクスロン乳剤等のIGR系、クロラントラニリプロール水和剤等のジアミド系、アブラムシ類に対するフロニカミド水和剤、ピリフルキナゾン水和剤、(チアクロプリド水和剤等、一部の)ネオニコチノイド系、カイガラムシ類に対するブプロフェジン水和剤、スルホキサフロル水和剤などが挙げられます。これらの殺虫剤は時期を選ばず使用してもカブリダニ類に悪影響を及ぼしません。一方で、非選択性殺虫剤はカブリダニ類に悪影響を及ぼすため、特にハダニ類が増殖時期を迎える6月から7月にかけては、なるべく使用を控えた方が良いです。こうすることによって天敵カブリダニ類の定着が促され、その後のハダニ類の発生に備えることができます。

しかし、非選択性殺虫剤を使用しないことで、これまで同時防除されていた害虫種が新たに発生してくる可能性があるため、従来よりも丁寧に園内を観察するよう心がける必要があります。

(2)草生栽培などによる園内環境整備

従来、ナシ園内の雑草は害虫の温床になるため、除草することが推奨されてきました。ところが昨今の研究結果では、下草が「カブリダニ類の居場所」として機能する一面がクローズアップされており、従来とは逆に、草を残すほうがハダニ類のIPM防除との相性が良いことが注目されています(写真3)。

写真3

写真3.草生栽培の様子
(左:IPM防除における株元草生栽培、右:従来の草生栽培)

4.土着カブリダニ類とカブリダニ製剤を利用したハダニ類のIPM防除

殺虫剤選択や環境整備でカブリダニ類の定着を促したナシ園においては、土着のカブリダニ類が発生し、殺ダニ剤の使用は2回だけで済ませることができました(図1、対照区)。この状況で、さらにミヤコカブリダニ製剤「ミヤコバンカーR」を使用したところ、使用しなかった場合と比べて樹上でのカブリダニ類の発生時期が早まり、その結果、殺ダニ剤を使用せず、対照区と同等の低い密度にハダニ類を抑制させることができました(図1、ミヤコバンカーR区)。

図1

図1.ミヤコバンカーR区と対照区におけるハダニ類とカブリダニ類の発生消長(白井市、平成30年)

(各区3樹から100葉ずつ調査した1葉当たり平均寄生数。ミヤコバンカーR区には1樹当たり4パックを亜主枝上に設置した。両区とも、非選択性殺虫剤の使用をミヤコバンカーR設置時期の3週間前までに制限し、カブリダニ類の定着を促した。対照区では殺ダニ剤による防除を2回行った。)

図1の拡大画像(JPG:53KB)

5.おわりに

ナシ園における生物相は多様であり、各園の状況もそれぞれ異なるため、ここで紹介したハダニ類のIPM防除技術はあくまでも一例に過ぎません。まずはどの園にも共通する「薬剤選択」と「環境整備」を中心にこれまでの管理を見直し、ハダニ類が多発生しにくいナシ園を目指しましょう。ここで紹介したIPM防除技術の詳細については「ニホンナシにおける天敵カブリダニ類を主体としたハダニ類のIPM防除マニュアル」(千葉県、令和2年3月発行)(PDF:3,039.5KB)をご参照ください。なお、本稿に掲載された試験の一部は、農研機構生研支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」(土着天敵と天敵製剤<w天敵>を用いた果樹の持続的ハダニ防除体系の確立)の中で実施されました。

農林総合研究センター

病理昆虫研究室

研究員清水健

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所属課室:農林水産部担い手支援課専門普及指導室

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