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更新日:令和7(2025)年5月21日
ページ番号:7935
家畜ふん堆肥施用量の算出法
「千葉県家畜ふん尿処理利用の手引き」より
家畜ふん堆肥施用量の算出の考え方は次のとおりです。
前述のとおり、家畜ふん堆肥は稲わら堆肥より肥料成分が多いため、過剰に施用した場合には農作物が過繁茂になったり、地下水の硝酸態窒素汚染の原因となる可能性がある。このため、家畜ふん堆肥の施用量を決める場合、その肥料的効果を考慮する必要がある。
図III-4-3に示したように、家畜ふん堆肥の肥料的効果を考慮しない施肥設計では、化学肥料に家畜ふん堆肥中の肥料成分が上乗せされてしまう。そこで、家畜ふん堆肥の施用量を肥料的効果を考慮した施用量とするとともに、化学肥料の施用量を減らし肥料成分が上乗せされないようにする。
このような肥料的効果を考慮した家畜ふん堆肥の施用量の算出法について、以下に考え方と具体的な算出手順を示す。
肥料的効果を考慮しない施肥設計
肥料的効果を考慮した施肥設計
図III-4-3家畜ふん堆肥の肥料的効果を考慮した場合としない場合の化学肥料と堆肥の施用量の違い
考え方のポイントは以下の三点であるが、これは家畜ふん堆肥施用後に作付けられる作物に対する肥料的効果を考慮したものであり、連用による土壌肥沃度向上効果は考慮されていない。
ア基肥の代替資材
化学肥料に家畜ふん堆肥の肥料成分が上積みされないようにするため、化学肥料の施用量を減らして、その分を家畜ふん堆肥の肥料成分で置き換える。
化学肥料中の成分(例:アンモニア)は施用後すぐに効く、速効性である。一方、家畜ふん堆肥中の肥料成分は、土壌に施用された後、微生物の作用等によって分解されてから農作物に吸収される。このため、家畜ふん堆肥は速効性が期待される追肥の代替には向かず、基肥の代替として利用する。
代替の割合は「代替率」(図III-4-4のC÷A×100)で示される。代替率0%は、化学肥料のみ施用の場合であり、代替率100%は家畜ふん堆肥のみ施用の場合である。
基肥窒素の代替率は30%を目安とする。その理由は二つあり、一つは、家畜ふん堆肥中の窒素の肥効が温度(地温)に左右されるため、代替率が高い場合に肥効が不安定になり易いためである。もう一つは、「環境にやさしい施肥基準」(平成12年9月)において、環境基準と土づくりに配慮した有機物資材の施用量は、施肥窒素と有機質資材中全窒素の合計窒素施用量を当面年間30キログラム/10アール以下を目安とすることとなっており、図III-4-5に示したように、代替率が高い場合にこの目安を大幅に上回ってしまうためである。
なお、窒素以外の肥料成分(りん酸、加里、石灰、苦土)については、農作物に対する影響が窒素ほど大きくないため、代替率の上限を100%とする。
図III-4-4家畜ふん堆肥中窒素の代替率と肥効率の考え方
図III-4-5堆肥の種類と代替率の違いが全窒素施用量に及ぼす影響(試算)
注)堆肥の代替以外の窒素とは、堆肥の全窒素から肥料的効果(堆肥による代替)窒素を差し引いたものである。
試算の条件
イ肥効率
家畜ふん堆肥に含まれる肥料成分は、「堆肥利用促進ネットワークシステム」では「窒素全量(%)」、袋詰め堆肥では「窒素」と示されている。窒素だけでなく他の肥料成分も、表示されているのは家畜ふん堆肥に含まれる全成分量であり、この全てが化学肥料と同じように効くわけではない。この効き目を示すのが肥効率である(図III-4-4のC÷D×100)。
肥効率は、家畜ふん堆肥中肥料成分の肥料としての効果を化学肥料と比較した指数で、化学肥料と同等ならば100%、化学肥料の半分ならば50%となる。例えば、化学肥料で窒素8kg/10a施用した場合と同等の収量を得るために、家畜ふん堆肥を窒素成分として20キログラム/10アール施用する必要があれば、その家畜ふん堆肥の窒素肥効率は40%(=8÷20×100)となる。
家畜ふん堆肥の肥効率の目安は表III-4-3のとおりであり、副資材の有無にかかわらず畜種と乾物当たり窒素含有率で窒素肥効率を区分する。りん酸、加里、石灰、苦土については、化学分析の結果から肥効率を推定したものである。
なお、家畜ふん堆肥の施用量に成分含有率を掛けたものが「成分投入量」であり、この成分投入量に肥効率を掛けたものが「有効成分投入量」である。
表III-4-3家畜ふん堆肥の肥効率の目安(PDF:34.3KB)-黒ボク土露地野菜対象-
(窒素肥効率は副資材の有無にかかわらず、乾物当たり窒素含有率で区別する)
注1)化学肥料の肥効を100とした場合の、家畜ふん堆肥の肥料的効果の指数である。
2)現物当たり全窒素含有率と水分から次式で求める。
乾物当たり全窒素含有率=現物当たり全窒素含有率÷(100-水分(%))×100
なお、現物当たり全窒素含有率は、堆肥利用促進ネットワークシステムでは「窒素全量」、袋詰め堆肥では「窒素」として示されている。
黒ボク土地帯の露地野菜を対象とした、具体的な施用量の算出手順を図III-4-6に、計算例を(3)に示す。
図III-4-6家畜ふん堆肥の肥料的効果を考慮した施用量の算出手順
図III-4-7窒素成分を考慮した家畜ふん堆肥施用量の算出式
ア算出に必要な情報
家畜ふん堆肥の肥料的効果を考慮した施用量を算出するために、作付け品目の基肥の化学肥料施用量と家畜ふん堆肥の肥料成分含有率の二つ情報を用意する。基肥の化学肥料施用量は、施肥基準と土壌診断の結果に基づいて施肥設計を行う。土壌中の硝酸性窒素含量(ミリグラム/100グラム)が20の時は、20キログラム/10アールと見なし、肥効率60%を乗じた分を基肥窒素施用量から減肥し、必要窒素施用量とする。同様に20から40では肥効率70%、40から60では肥効率80%を乗じ、減肥し、必要窒素施用量とする。(施肥基準P1543作物別施肥基準3野菜(1)野菜の土づくりと施肥法カ施肥前の土壌診断による減肥参照)。家畜ふん堆肥の肥料成分含有率は、堆肥利用促進ネットワークシステムなどから入手する。
イ窒素成分を考慮した家畜ふん堆肥施用量の算出<計算例2>
図III-4-7に示した式を用いて、必要窒素施用量、代替率、堆肥の窒素含有率、窒素肥効率の四つから、窒素成分を考慮した家畜ふん堆肥施用量を算出する。
必要窒素施用量は施肥設計時の基肥の施用量を用い、代替率は30%を目安とする。また、窒素肥効率は、表III-4-3の数値を用いる。
ウりん酸等の有効成分量の算出<計算例3>
イの家畜ふん堆肥施用量に各成分の含有率と肥効率を掛けて、有効成分量を算出する。
エ設計時の基肥化学肥料施用量との比較<計算例3>
設計時の基肥化学肥料施用量とウで算出されたりん酸等の有効成分量を比較し、有効成分量が下回っている場合には、その差を化学肥料で補う。
オ有効成分量が設計時の基肥化学肥料施用量を上回っている場合<計算例4、5>
上回っている成分(代替率が100%以上のもの)について代替率を100%にして家畜ふん堆肥施用量を再計算する。
以上の計算は非常に煩雑であるが、「家畜ふん堆肥利用促進ナビゲーションシステム」の「家畜ふん堆肥による基肥代替計算テーブル」を用いることにより、これらを自動的に計算することができる(操作については「家畜ふん堆肥利用促進ナビゲーションシステム」の項を参照のこと)。
なお、参考として、畜種・製造区分別の有効成分量を表III-4-7と表III-4-8に示した。
化学肥料基肥施用量と牛ふん堆肥の成分含有率を表III-4-4、表III-4-5とした場合の計算例を示す。
表III-4-4化学肥料基肥施用量(キログラム/10アール)
窒素 |
りん酸 |
加里 |
石灰 |
苦土 |
---|---|---|---|---|
15 |
20 |
15 |
43 |
10 |
表III-4-5牛ふん堆肥の成分含有率(%)
水分 |
窒素 |
りん酸 |
加里 |
石灰 |
苦土 |
---|---|---|---|---|---|
50 |
1.20 |
1.30 |
1.60 |
1.80 |
0.70 |
<計算例1>従来の肥料成分が考慮されていない家畜ふん堆肥の利用(PDF:33.7KB)
a=設計時の基肥化学肥料施用量(キログラム/10アール)
b=全成分量(キログラム/10アール)
c=肥効率(%)
d=有効成分量(キログラム/10アール)
従来の肥料成分が考慮されていない家畜ふん堆肥の利用の場合、有効成分合計量が化学肥料基肥施用量を上回る。
<計算例2>窒素成分を考慮した家畜ふん堆肥施用量の算出(図III-4-7の式による)
家畜ふん(牛ふん)堆肥施用量(キログラム/10アール)
<計算例3>窒素成分を考慮した家畜ふん堆肥施用量とりん酸等の有効成分量(PDF:41.3KB)
a=設計時の基肥化学肥料施用量(キログラム/10アール)
b=全成分量(キログラム/10アール)
c=肥効率(%)
d=有効成分量(キログラム/10アール)
e=代替率(%)
f=計算後の基肥化学肥料施用量(a-d)
(牛ふん堆肥で不足する成分)
注)d=b×c÷100、e=d÷a×100
加里が設計時の基肥化学肥料施用量を上回り、代替率が100%以上となる。
<計算例4>加里の代替率を100%とした場合の家畜ふん堆肥施用量の算出
家畜ふん(牛ふん)堆肥施用量(キログラム/10アール)
<計算例5>加里の代替率を100%とした場合の家畜ふん堆肥施用量と成分量(PDF:40.5KB)
a=設計時の基肥化学肥料施用量(キログラム/10アール)
b=全成分量(キログラム/10アール)
c=肥効率(%)
d=有効成分量(キログラム/10アール)
e=代替率(%)
f=計算後の基肥化学肥料施用量(a-d)
(牛ふん堆肥で不足する成分)
家畜ふん堆肥の有効成分が設計時の基肥化学肥料施用量を上回らなくなる。
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