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ホーム > 教育・文化・スポーツ > 歴史・文化 > 文化振興事業 > ちば海の魅力ポータルサイト > インタビュー企画「海と人」vol.7 海女 平野 美乃氏
更新日:令和7(2025)年6月10日
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千葉県の海に関わる様々な人を取材し千葉の海の魅力を語っていただきます。
今回は海女である、平野 美乃氏にインタビューを行いました。
「海の中は全然違う世界なんですよね。そこが面白いんです」
「これはハバノリ(※1)という海苔の一種で、今年初めて挑戦してみたんです。毎年、この辺では5月1日から9月10日が海女のシーズンなんですけど、潜れない期間は、昔からこうやって浅瀬で採れるもので生計を立てていたみたいで。私もやってみようかなと思って」
南房総市白浜町。房総半島の最南端の地で暮らしながら、海女を生業とする平野美乃さん。天日にさらした海苔を背に、白浜地区が誇る伝統的な海の仕事についてお話を伺いました。
「きっかけは『曲げ樽(※2)』をもらったこと。それまでも、子ども達と一緒に家の近くの海でよく遊んでいたんですけど、それをみていた、海女の親戚が誘ってくれたんです。”海好きだったらこーよ(※3)”って」
もらった曲げ樽と、自分で買い揃えていった道具で海の中の世界に挑んでいった平野さん。 “一人で潜っていると危ないから海女小屋こーさ(※4)”と再び声をかけてもらい、海女として先輩たちと行動を共にするようになったそう。そんな母の挑戦を、家族は喜んで見守ってくれたといいます。
「子育ても一段落したタイミングだったので、ちょっと本格的にやってみようかなって言ったら『え、いいじゃん!』『毎日貝が食べられるの!』ってリアクションで。でも、現実はそんな甘くなかったんです」
※1ハバノリ・・・海岸の岩場や波打ち際に生える海藻の一種。
※2曲げ樽・・・海女が漁に使う道具の一つで、浮きがわりに体に抱えて使う。
※3「こーよ」※4「こーさ」・・・関東で使われる方言で「来なよ」という意味。
▲2人の娘さんと『海女まつり』に参加する平野さん
幼い頃から白浜町で海を目の前に育ち、お子さんが生まれてからも家族で海に入って遊んでいたという平野さん。しかし、いざ海女として海に出ると、その厳しさを痛感することになります。
「浅瀬で遊んでいた時は、海に潜ると別世界が広がっていて『海の中ってすごい!面白い!』って気持ちだったんですけど、一番最初に先輩について潜った海が真っ暗で。たまたま海が濁っていた日でもあったんですけど、何も見えないところに潜っていくのは本当に怖かったです。それから、樽に乗って浮かんで何十分、何時間と過ごすので酔うんですよ。これ続けられるかなって不安でいっぱいでした」
平野さんが海女としてデビューしたのはシーズンの終わりかけの頃。そのシーズンは自分の身長分すらも潜れず、獲物は一匹も獲れないまま、テングサを採って帰るだけの日々を過ごしたそう。
「次のシーズンも、しばらく獲れなかったですね。サザエとアワビが狙いなんですけど、岩と同化していて探すのもひと苦労なんですよ。先輩が見つけて目印を置いてくれていても "ええ!どこ?"って感じで。でもそのシーズンの終盤に、初めてサザエを1個獲れたんです。すごく嬉しくて、あの時の気持ちは今でも忘れられません」
初めて手に触れたサザエの感触を頼りに、海女を続けてきた平野さん。今では、1日に8kgから10kgのサザエやアワビを獲ってくるといいます。
「海は今でも怖いです。天候は慎重に判断しないといけないし、海に出られるのって、シーズン中に30日程度なんですよ。自然の恵みで仕事をしているからこそ、自然に対する畏敬の念は忘てはいけませんね」
「このあたりのアワビは『房州黒アワビ』というブランドになっているんです。昔から伝統的に海女の文化を受け継いできた地域で『白浜海女まつり』というお祭りもある。海女の街なんですよね」
誇らしげに、白浜地域の海女文化について語る平野さん。海女暦18年目の今、海女という仕事とその伝統について強く意識したのには、あるきっかけがあったといいます。
「昨年度、水産事務所から、県や全国の交流会等で白浜の海女代表として海女の現状を発表してくれないか、という依頼をいただいてその活動を行っていました。発表にあたって色々調べていくうちに、海女文化を強く意識するようになりました」
曲げ樽を譲り受けたことから始まった平野さんの挑戦。初めて獲った一つのサザエをきっかけに、海女という生き方の道が開け、今度は伝統文化の担い手として白浜の海と向き合うようになったそう。
「昔は漁師の妻が漁に出かけた夫を待つ間に生業として行っていたみたいなんですが、今は海女をする理由は様々です。担い手が減っている状況もありますし、ここはまだ大丈夫ですが、環境の変化による磯焼け(※5)の話も、近隣の海では聞こえてきます。海女が使う道具にしても、作り手がほとんどいなくなって、修理しながら大事に使っているものもあります。ただ海女としての技術向上だけでなくて“教える““つなぐ“という気持ちで、これからも海に向き合っていきたいと思います」
海女として、新しい挑戦へ眼差しを向ける平野さん。海に面した窓に日が差し込み、ハバノリの隙間から春を待つ房総の海がきらきらと輝いていました。
※5磯焼け・・・藻場が温暖化等の環境変化により、経年変化の範囲を超えて著しく衰退または消失する現象のこと。
白浜 房州最南端 海女の街
海と人をのぞいてみると、
宝の眠る別世界へ、
微かな光が消えては届く、
冒険の舞台がありました。
▲漁をする平野さん
やっぱりアワビですね!オリジナルの食べ方なんですが、アワビの肝を醤油とみりんとお酒と砂糖で甘じょっぱく煮てから、グリルで焼いて焦げ目をつけるんです。それを薄くスライスして、ちびちびお酒のつまみとして食べると美味しいですよ!名前をつけるとしたら…「肝の海女煮(あまに)」ですかね!
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