ここから本文です。

更新日:令和6(2024)年12月16日

ページ番号:718946

私だからこそ、できること(令和6年度心の輪を広げる体験作文入賞作品)

私だからこそ、できること

高校生区分

千葉県知事優秀賞

筑波大学附属聴覚特別支援学校高等部1年
古畑 七奈(ふるはた なな)

 

 

 私には聴覚障害があり、小学生の頃からずっと同じ聾学校に通っている。加えて、私には生まれつきではないが、肢体不自由がある。中学のときは一階の教室ですべての授業を受けることができたため、そこまで大変だとは感じなかった。高校では教室は二、三階にあるが、中学と違いエレベーターがあるため、移動に不便を感じていない。肢体不自由の特別支援学校に通うという選択肢もあったが、聴覚障害のある私は授業における情報保障を重視していたため、これまで通り聾学校に通うことを選んだ。
 高校の校舎内には、いくつかの特別教室の入り口に段差がある。入学して間もない頃は教室移動の際に先生方に車椅子を押してもらっていた。しかし先生方も車椅子の扱いに慣れていないのか、不安そうだった。また私も授業の担当の先生が来るまでは教室の前で待っているため、みんなを待たせてしまい授業の開始が遅くなってしまうことが多々あり、みんなに対して肩身の狭い思いを抱いていた。一人で段差を下りようとして失敗し、危険な目に遭ったこともあった。そこで、両親にスロープを購入してもらうことになった。不安定だったり車椅子の幅や教室の入り口の幅に合わなかったりで何度か買い直しながらも、無事にスロープを準備することができた。LHRの授業で一年生が集まった際に、担任の先生からスロープの設置の方法の説明をしてもらった。私はそのとき、実際は今まで通り、生徒のみんなではなく、先生にスロープを設置してもらうことになるのだろうと思っていた。

 スロープを初めて使うことになったのは、運の悪いことに昼休みの委員会活動のときだった。この日の活動に参加する同級生はたったの三人。しかも、同じクラスの人ではない。隣のクラスの人に頼みに行かなければと思っていた。だが、彼は私が口を開くより先にこう言ったのだ。
「スロープ、持ってくね。」
本来は私の方から頼むべきなのに、まるでスロープを持っていくことが当たり前のことのように、彼はそう言った。まさか友人の方からそのように言ってもらえるとは思わなかった。私に驚きと喜びの感情が込み上げてきた。その日の感動を私は一生忘れないだろう。またその日以降も友人たちは教室移動の際にスロープが必要になると積極的に動いてくれた。この出来事から私には気がついたことが二つある。
 一つ目はきっと友人たちは、入学当初から私のことを手伝おうとしてくれる気持ちがあったのだろう、ということだ。実際に同じクラスの友人たちは、ロッカーの荷物の出し入れを普段から手伝ってくれていた。違うクラスの友人も、私が通る道に荷物がある時はそれをさりげなく避けてくれていた。ただ、車椅子に関して段差の上り下りをさせるのは、大人である先生方でも緊張感をもってやってくださっていた。そのためみんなも危ないのではないか、自分にできるのか、と不安な気持ちになり、手伝えなかっただけなのではないかと今なら思う。私が自意識過剰なだけかもしれないけれど、きっとそうだと思う。今まで自分を手伝おうとしてくれていた、手伝ってくれていたことに気がつけなかった申し訳なさと、みんなが当たり前のように手伝ってくれる、その優しさを当たり前だと思ってはいけないと改めて思った出来事だった。
 二つ目は、私はさまざまな人に支えられている、ということだ。友人や先生方は私のためにスロープを設置してくれる、身近で支えてくれている人々だ。またスロープを開発するなど、間接的に支えてくれる人々もいる。そしてそのスロープを購入してくれた両親、環境を整えてくれる人々も忘れてはならない。目に見えている人も見えていない人も私のことを支えてくれていて、その中の誰が欠けても、私は学校生活を不自由なく送ることができない。
 スロープに関わらず、人を手伝おうとする気持ち、物を開発すること、それを買うこと、これらが関わり合って現代の社会は成り立っていると私は考える。それら一つ一つの力は小さなものなのかもしれない。一人の人間にできることは限られているからだ。でも、同じ意思を持つ人々が集まり、努力を重ねることで大きな力となり、物事を成し遂げることができる。個々の小さな力は決して無駄ではないのだ。そしてそれは、私の力も例外ではないはずだ。私は身体の面でできないことが多い。けれど、障害の有無に関わらず誰にでもできないことはあるし、その人にしかできないこともある。みんながそれぞれの方法で社会貢献をすることができる。私は今までできないことを補うために、学年での話し合いの際は積極的に意見を言ったり、書記として記録を残したりするなど、できることに全力で取り組んできた。このことはもちろん、これからも続けていきたい。

 私だからこそこれからできることは、どんな支援が必要かを周囲に知ってもらうことだ。今当たり前に使用しているエレベーターやスロープは、声を上げた当事者がいたから開発された。そして肢体不自由の人はもちろん、健常者も過ごしやすくなったはずだ。私が声を上げることで私だけでなく、周囲の人もどんな支援をすれば良いかを知り、気を使いすぎずに済む。誰もが暮らしやすい社会の実現につながっていくだろう。そのために、私は身近なところから声を上げていきたい。

 

お問い合わせ

所属課室:健康福祉部障害者福祉推進課共生社会推進室

電話番号:043-223-2338

ファックス番号:043-221-3977

より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください

このページの情報は役に立ちましたか?

このページの情報は見つけやすかったですか?