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更新日:令和3(2021)年12月13日

ページ番号:481015

三人の塾長に学んだ私の思い描く世界(令和3年度心の輪を広げる体験作文入賞作品)

三人の塾長に学んだ私の思い描く世界

高校生区分

千葉県知事優秀賞

筑波大学附属聴覚特別支援学校 高等部2年
秋本 秀翔(あきもと しゅうと)

 

私は小学五年の時から今日までずっと同じ塾に通っている。今日までに塾長は二度代わった。私は聴覚障害があるため相手が何を言っているかわからなかった時に聞き返すのだが、どの塾長も心を開いてくれ、邪険にせずにもう一回同じことを言ってくれた。

私は一番最初の塾長には本当に申し訳ないことをしたと思っている。私は聴覚障害のある人が通う聾学校に学んでおり、当時の私は健常者と触れ合う機会がほとんどなかった。触れ合ったとしても聴覚障害に理解のある学校の先生だったり、親だったりしたのだ。聴覚障害に理解のない、言わば一般人と話したことはなかった。私にとって一番最初に触れ合った一般人が塾長であった。当時の私がそこで取った行動は「できるだけ塾長と関わらない」であった。どうすればよいのかわからなかったのだ。怖かったのだ。それでも中学受験合格のために塾長は熱心に動いてくれ、嫌な顔をする私にも話しかけてくれた。しかし私はとうとうその塾長が転勤するまで心を開かなかった。お別れの挨拶こそはしたが、それでもまだ壁を作っていた。けれども親身になってくれた塾長がいなくなってしまったという喪失感は、当時の私に甚大な影響を及ぼしたらしい。二人目の塾長は一人目より気さくな人だったこともあってか私は自分から話しかけた。数学検定の申込に関する質問があり話しかけなければならなかったとはいえ、自分から話しかけたのだ。その時は中学二年生の夏休みくらいで思春期の真っ只中であり、ちょうど様々なことに興味が沸く時期だったということもあるのだろう。それからは事あるごとに普通に話した。何気ない会話ができるまでにはなっていなかったがそれでも十分な進歩であった。気がつけば高校受験の時期になり塾長と一緒に奔走した。無事に合格できたことを報告した際は、塾長も自分のことのように喜んでくれた。しかしまたも別れのときがやってきた。二人目の塾長は何も言わずに、私が中学を卒業する前に転勤してしまった。私が次に塾に行った時には見知らぬ人が塾長の椅子に座っていたのだ。新しい三人目の塾長は口をあまり動かさない人で、何を言っているのかほとんどわからなかったが、おそらく挨拶やら自己紹介やらしてくれているのだろうなと思った。三人目の塾長は私に聴覚障害があることは理解してくれたものの、何に気をつければいいかがわからないという感じであった。今までの塾長のおかげで、私は自ら聴覚障害について、ところどころ詰まりながらも説明をすることができた。親身になって聞いてくれた三人目の塾長は今や大学受験だけでなく、普段の勉強についても気軽に話せる存在となった。私の年齢によるところもあるだろうが、それでもこれまでの後悔と迷走が今の私を形作り、自ら説明しようとする勇気をもたらしてくれたのだと思う。今更ながら三人の塾長には感謝しかない。一人目と二人目の塾長にはきちんと言葉にして伝えたかった。三人目の今の塾長はまだ間に合うので近いうちにしっかりと伝えたい。

聴覚障害があるから健常者と触れ合うのは怖いが、触れ合うことで得られる貴重なものも確かにあることを、私は三人の塾長から学んだ。健常者も私たち聴覚障害がある人と触れ合うのが怖いのだろう。それでも心を開いてくれた。ならば私たちもそれに応えなければならない。お互いが心を開いた先には、案外普通の楽しい会話が待っていた。確かに聴覚障害というのはやはりまだまだ稀なのだと思う。昔より周知されたし、対応も良くなったかもしれない。しかし多くの健常者は聴覚障害のある人と直接触れあったことがないだろう。だからこそ私たち当事者が自ら声を発信し、どうしてほしいかを伝えるべきだと思う。現在私は高校二年であり、民法が改正されたため、あと一年もすればあっという間に大人の仲間入りだ。大人になるということがどういうことなのかわからないが、少なくとも自分のことについて説明できるのが当たり前だということはわかる。幼少期からずっと聾学校に通っているため健常者と関わる機会がなかなかなかったが、高校になると他校との交流の機会が増えた。私はこの交流こそが自分の世界を広げるよい機会であり、自分のことをうまく説明するための練習にもなると思っている。残りの一年間、大学受験のために今の塾長と二人三脚で頑張るのはもちろんだが、私は交流にも力を入れていきたい。怖いのはお互い様なのだから、心を開いてくれるきっかけを作るべく自分から積極的に動いていきたい。そして、高校卒業後は様々な人と交流する機会をもち、聴覚障害者と健常者が楽しく会話している世界を見つめていきたい。

 

 

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