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更新日:令和3(2021)年12月13日

ページ番号:481025

あたりまえじゃないこと(令和3年度心の輪を広げる体験作文入賞作品)

あたりまえじゃないこと

一般区分

千葉県身体障害者福祉協会理事長賞

事務職

鴨野 京子(かもの きょうこ)

 

おぎゃあと産声をあげて、おっぱいを飲み、ご飯を食べてウンチを出す。やがて歩くようになり、話をする。皆さん、そんなの当たり前のことだと思っていませんか?少なくともわたしは、そう思っていました。しかし、三女は違いました。

三女の出産は、とても静かでした。ふにゃあっと産声を上げた後、分娩室は静まりかえり、看護師さんたちが何かの処置をする機械音だけがカチャカチャと鳴り響いていました。助産師さんから「こういう顔の子はね、ちょっと心配することがあるんだけど、大丈夫だから」と言われました。わたしは何のことを言っているのか、さっぱりわかりませんでした。程なくして三女は近隣の総合病院のNICUに転院となり、染色体検査の結果、ダウン症とわかりました。

わたしは、ダウン症に関して無知でした。ただひたすらに、インターネットで検索すると、悪魔の子だとか、家族を不幸にするといった、恐ろしい言葉ばかりが目に入ってきました。

娘はおっぱいを飲むことも、ウンチを出すこともできませんでした。NICUでは、鼻に栄養注入の管が入り、点滴がされ、痛々しい姿でした。いつ行ってもぐったりと目をつぶっていて、この子は本当に生きていけるのだろうかと思いました。肺や心臓の疾患はなかったものの、腸に疾患があり、生後間もなく手術を受けなければなりませんでした。

それでもわたしたちは立ち止まるわけにはいかず、在宅で経管栄養とウンチを出すための浣腸を行う指導を受け、約二か月の入院を経て、娘は退院となりました。クリスマスを一緒に過ごせるという喜びとともに、大きな不安がありました。

娘が退院してからは、必死でした。赤ちゃんがおっぱいを飲むのと同じ間隔で注入をしなければならないのですが、母乳を注入するために、その都度搾乳をしていました。そして腸の手術を受けるまでの間は、浣腸をして肛門にカテーテルを入れ、ウンチを出してあげるという作業もありました。一日が搾乳、浣腸、注入の繰り返しで、あっという間に時間が過ぎていきました。わたしは常に時間に追われ、イライラしていました。上の娘二人の話を聞いてあげる余裕などありませんでした。三女は医療処置が必要なため保育所に入ることができず、わたしは産後復職する予定だった会社を退職しました。

わたしがなぜこのようなことを書いているのかというと、知ってほしいからです。多くの人が当たり前と思っていることが、当たり前じゃないということを。

では、わたしたち家族のもとに障害のある娘が生まれて、不幸になったのかと言うと、そうではありません。

確かに、三女が生まれてからたくさんの出来事がありました。でもそのことによって、気付いたこと、学んだこと、成長したこと、そしてできなかったことができるようになった時の、大きな喜びを感じてきたのです。

病気や障害と戦っている子供たちはたくさんいます。わたしは自分がいかに無知だったのかを思い知らされました。

そして、障害がある子を育てる時、決して一人ではないということ。病院では、医療処置以外にも様々な指導を受けることができました。娘は摂食指導とリハビリを受け、今では、スイカをおかわりするくらいモリモリ食べるようになり、二歳ほどで歩けるようになりました。

また、障害の状態や程度によっても異なりますが、行政から受けられる様々な支援もあります。

療育に関しては、少し悩んでいます。発達のテストでは、発達の遅れを指摘されましたが、わたしはその「遅れ」というのが腑に落ちません。子供を育てるうえで、ある程度の指標というのは参考になると思いますが、標準に近づけようと思うあまり、親がストレスを感じたり、子供に無理を強いることは意味がないと思います。娘に障害があるからと、あきらめているわけではありません。娘は娘なりに、ゆっくりと成長していて、それが彼女のペースなのです。どんなお子さんでも、歩くのが遅かったり、言葉が出なかったり、みんなそれぞれでいいと思うのです。三女は今、元気に保育所に通っています。三歳で一歳児のクラスに入っていますが、わたしはそれを恥ずかしいとは思わないし、むしろ保育所の計らいに感謝しています。ただ、障害があるとわかったうえで、これから社会に出ていくために、少しずつできることを増やしていくことは大事だと思っているので、娘自身が「できる」ことに喜びを感じ、成長できるのならば、療育を受けたいと思っています。

上の娘二人も、成長しました。三女が生まれてから、たくさんの我慢や辛いことがあっただろうに、恨み言を言うことはありません。長女は三女をとても可愛がり、わたしと共に三女の成長を喜んでいます。次女は歳が近いので、ケンカをすることもありますが、三女にやり返すことは絶対ありません。そして三女が保育所に入った時には「わたしに任せて!」と言ったのです!わたしから、妹は障害があるのだから優しくしなさいと言ったわけではありません。彼女たち自身が感じ、成長してくれたのです。

娘の成長は、まだまだこれからです。就学や自立といった、更なる試練が待ち受けていることと思います。でもそれは、長女や次女も同じことです。どんなに健康に生まれた子供を、育児書通りに育てたとしても、思い通りの人生になんてなりません。長女や次女も、わたし自身も、いつ大きな事故に遭うか、病気にかかるかなど、誰もわかりません。だからダウン症の三女が、生まれながらにして不幸だなんて、誰にも決められないのです。少なくともわたしたち家族は、三女の成長を共に喜び、笑顔に癒されてきました。悪魔の子なんかではなかったのです!

三女はこれまで、たくさんの支援を受けて成長してきました。そしてこれからも、たくさんの人の手を借りて、生きていくことと思います。どうかその時には、奇跡的に健康な恵まれた体を持った人たちに、手を差し伸べてほしいのです。その体が当たり前じゃないことを知り、大切にし、自分と同じことができない人を蔑んだりせず、理解し、受け入れてほしいのです。障害や病気を持った人は身近にいます。別世界の出来事ではありません。すぐそばで助けを必要としています。

これからの社会が、障害のある人にとって、全ての人々にとって、互いに理解し助け合える、素晴らしい社会となっていきますように。

 

お問い合わせ

所属課室:健康福祉部障害者福祉推進課共生社会推進室

電話番号:043-223-2338

ファックス番号:043-221-3977

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