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更新日:令和5(2023)年8月31日

ページ番号:3443

第2 介護保険施設等における身体拘束廃止に向けた取組を進めるために

 第2 介護保険施設等における身体拘束廃止に向けた取組を進めるために

介護保険施設等においては身体拘束が原則として禁止されており、身体拘束を事故防止対策として安易に正当化することなく、高齢者の立場になって、その人権を保障しつつケアを行うという基本姿勢の下で、介護を必要とする高齢者の自立の支援に向けたサービスの提供を行うことが求められています。

こうしたことから、実際に身体拘束廃止に向けた取組を進めていくためには、それぞれの施設や病院等の現場において、まず、組織として取り組むべき課題について整理した上で、そうした課題の解決に向けて積極的に取り組んでいくことが必要となります。

<参考>

身体拘束廃止を進めるための18のチェックポイント
~あなたの組織でまだできることがありませんか?~

  1. 「身体拘束廃止」をトップが決意し責任を持って取り組んでいるか。
  2. 「縛らない暮らしと介護」の推進チームを作るなど体制作りをしているか。
  3. 各職種の責任者がプロ意識を持ってチームを引っ張り、具体的な行動をとっているか。
  4. 「身体拘束とは何か」が明確になっており職員全員がそれを言えるか。
  5. 「なぜ身体拘束がいけないか」の理由を職員全員が言えるか。
  6. 身体拘束によるダメージ、非人間性を職員が実感しているか。
  7. 個々の拘束に関して、業務上の理由か利用者側の必要性かについて検討しているか。
  8. 全職員が介護の工夫で拘束を招く状況(転びやすさ、おむつはずし等)をなくそうとしているか。
  9. 最新の知識と技術を職員が学ぶ機会を設け積極的に取り入れているか。
  10. 利用者のシグナルに気付く観察技術を高めていく取り組みを行っているか。
    (例:観察による気付きの話し合い、観察記録の整備、観察日誌の工夫)
  11. 各職員が介護の工夫に取り組み、職種をこえて活発に話し合っているか。
  12. 決まった方針や介護内容を介護計画として文書化し、それを指針に全員で取り組んでいるか。
  13. 必要な用具(体にあった車椅子、マット等)を取り入れ、個々の利用者に活用しているか。
  14. 見守りや、利用者と関わる時間を増やすために業務の見直しを常に行っているか。
  15. 見守りや、利用者との関わりを行いやすくするために環境の点検と見直しを行っているか。
  16. 「事故」についての考え方や対応のルールを明確にしているか。
  17. 家族に対して拘束廃止の必要性と可能性を説明した上で、協力関係を築いているか。
  18. 拘束廃止の成功体験(職員の努力)を評価し、成功事例と課題を明らかにしているか。

ビデオ「身体拘束ゼロ作戦」より

 1 トップの決意と方針の徹底

介護保険施設等において身体拘束の廃止に向けた取組を開始するには、まず、組織のトップである施設長や病院長、そして看護・介護部長等の責任者が「身体拘束廃止」を決意し、表明し、現場をバックアップする方針を徹底することが重要となります。

このため、例えば、身体拘束の廃止に取り組むことを施設としての理念や運営の基本方針として位置付け、そのことを責任者から全職員に直接伝えるとともに、利用者や家族にも周知することが考えられます。

<理念等の例>

わたしたちは、利用者の権利を尊重し、生活の質を向上するためのサービスを提供します。

(施設名)では、身体拘束その他利用者の行動を制限する行為は行わないことを基本方針とします。

具体的な方法として、基本方針を職員会議にかけて周知する、全職員が基本方針を常に携帯する、基本方針を施設内に掲示する、パンフレット・契約書・重要事項説明書に明記する、施設の広報紙に掲載するといった取組が考えられます。

 2 委員会の設置と運営

身体拘束の廃止に向けた取組は、施設長等の責任者からの一方的な指示によって行われるものではありません。また、特定の一部職員による取組だけで、身体拘束の廃止が実現するものでもありません。身体拘束の廃止に向けて、施設や病院等の全員が一丸となって取り組むことが求められており、施設や病院等の全体で現場をバックアップする態勢を整えることが重要となります。

このため、例えば、施設内に医師、看護・介護職員、事務職員など全部門をカバーする「身体拘束廃止委員会」を設置し、定期的に委員会を開催していくことが考えられます。ここでは、身体拘束の廃止に向けて取り組むべき課題を明らかにし、具体的にどのように取り組んでいくのか、現場の創意工夫を引き出しながら検討を行うことが考えられます。

<身体拘束廃止委員会の例>

  1. 委員構成
    • 施設長、事務長、看護部長、介護部長
    • 各部署(ケアプラン、リハビリ、栄養、事務‥)の主任
    • 各ケア単位(1F、2F‥)の主任
    • その他、必要に応じて関係者が出席
  2. 開催日時
    • 毎月、第○週の○曜日、○時○分から○時○分まで
    • その他、必要に応じて随時開催
  3. 活動内容
    • 身体拘束の廃止に取り組む基本方針の確認
    • 身体拘束となる具体的行為についての検討
    • 身体拘束の実態調査
    • 身体拘束の廃止に向けた年間目標や行動計画の作成
    • 身体拘束廃止マニュアルの作成
    • 身体拘束の廃止が困難な事例についての検討
    • 身体拘束を解除した成功事例の発表
    • 緊急やむを得ない場合の身体拘束についての検討

 3 問題意識の共有

身体拘束の廃止に向けた取組に対して、「本人の安全確保のために身体拘束は必要」「スタッフ不足などから身体拘束廃止は不可能」といった消極的な考え方をする職員もいるものと思われます。身体拘束の廃止に向けて、身体拘束の弊害をしっかりと認識し、どうすれば廃止できるかを、トップも含めてスタッフ間で十分に議論し、みんなで問題意識を共有していく努力が求められます。

このため、例えば、厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」を各部署に用意して全職員が熟読する、身体拘束はなぜ問題なのかについて議論する、ビデオ等の研修資料を活用して勉強会を行う、課題の解決に当たって必要となる知識及び技術の習得のため研修に参加するといった取組が考えられます。

<参考>身体拘束がもたらす多くの弊害

身体的弊害

  1. 関節の拘縮、筋力の低下といった身体機能の低下や圧迫部位のじょく創の発生などの外的弊害をもたらす。
  2. 食欲の低下、心肺機能や感染症への抵抗力の低下などの内的弊害をもたらす。
  3. 車いすに拘束しているケースでは無理な立ち上がりによる転倒事故、ベッド柵のケースでは乗り越えによる転落事故、さらには拘束具による窒息等の大事故を発生させる危険性すらある。

精神的弊害

  1. 本人に不安や怒り、屈辱、あきらめといった多大な精神的苦痛を与えるばかりか人間としての尊厳をも侵す。
  2. 身体拘束によって、さらに痴呆が進行し、せん妄の頻発をもたらすおそれもある。
  3. 家族にも大きな精神的苦痛を与える。
  4. 看護・介護するスタッフも、自らが行うケアに対して誇りをもてなくなり、安易な拘束が士気の低下を招く。

社会的弊害

身体拘束は、看護・介護スタッフ自身の士気の低下を招くばかりか、介護保険施設等に対する社会的な不信、偏見を引き起こすおそれがある。また、身体拘束による高齢者の心身機能の低下は、その人のQOLを低下させるだけでなく、さらなる医療的処置を生じさせ、経済的にも少なからぬ影響をもたらす。

「身体拘束ゼロへの手引き」より

<参考> 拘束が拘束を生む「悪循環」(エクセル:16KB)

 4 家族への説明

これまで他の介護保険施設等で拘束されていた場合や、在宅でやむを得ず拘束していた場合など、利用者の安全を確保するために拘束することを家族が希望し、身体拘束を解除したくても家族の承諾が得られないといった事例もあるものと思われます。身体拘束の廃止に向けて、家族とのミーティングの機会を設け、身体拘束に対する基本的な考え方や転倒等事故の防止策や対応方針を十分説明し、利用者本人や家族の理解と協力を得ていくことが重要となります。

このため、例えば、介護保険施設等の利用開始時に、これまでどのようなケアを受けていたかなど利用者の生活歴等についての情報を収集する、身体拘束は原則として禁止されていることを説明する、身体拘束をしないケアに向けた具体的な取組の方向性や拘束をしないことによる事故の危険性とともに、安全という名目の下に行われる身体拘束がどのような弊害をもたらすのか、家族が理解できるように十分な話合いを行うといった取組が考えられます。

さらに、家族がいつでも利用者本人と会い、ケアの内容を確認することができるように面会時間に制限を設けない、日常的に利用者の生活状況を伝える、他の利用者のケースで身体拘束を解除した事例について説明する、拘束をしないための代替方法について家族と一緒に検討する、安全性を確認しながら段階的に拘束を解除し、家族にも経過を見てもらうといった取組によって、家族とのコミュニケーションを良くし、介護保険施設等に対する家族の信頼を高めていくことが必要と考えられます。

<コラム>

身体拘束ゼロへの家族の想い

社団法人呆け老人をかかえる家族の会

千葉県支部代表  宮原 二三代

痴呆の人にとってなぜ身体拘束がいけないのか。身体拘束を考えてみると痴呆の人にとって何をされるかという不安を異常に掻き立てられ、「怖い」「恐ろしい」という思いが渦のように湧いてきて、一時的に異常な心理状態に陥ります。そのような状況の中でどんな行動をとるか考えてみると、暴れたり大声で騒ぐのは当然なことです。本人が身体拘束を嫌だと感じるのは正常な感覚です。そして、「怖い」「恐ろしい」という思いだけがいつまでも頭に残ってしまい、すべての介護を、難しくしてしまうのではないでしょうか。身体拘束をしない介護をするためには、なぜ暴れるのか、なぜ動き回るのか、その人をしっかりと見据え、それまでの生活歴や身体状況から原因を把握しなければなりません。介護家族も、医療機関・福祉施設での適切なケアを進めるために、家族が今の生活レベルをきちんと把握し、介護職にしっかり伝え、連携を密にすることで信頼関係を作り出すことが、身体拘束の少ないケアにつながるはずです。

ただし、身体拘束は、きちんとした理由や管理の中で行われることであり、思いつきや身体の安全を守るという名の中に隠れた身体拘束であってはならないことです。

痴呆の症状の事例を多く携えている介護職は、介護家族の先頭に立ったケアに取り組んでいってほしいと考えます。

病気として起きる諸症状のため、ある程度身体拘束が必要であるならば、介護家族が十分な説明を聞き、話し合う中で、家族もきちんと思いを伝え、納得し同意する。介護家族も施設等に関わり、良い関係を作らなくては施設と共に介護される立場の人の尊厳や誇りを失うことなく、人間らしい生活が保証されることはないと思われます。契約の中で行われる行為は、人権の尊重の上で成り立つものであり、ケアの対応の悪さで補う身体拘束であってはならないと考えます。

呆け老人をかかえる家族の会の提言

  1. 「拘束」とは何であり、痴呆の人になぜ好ましくないかを話し合い、介護家族、医療・福祉関係者たちで合意を得るように努めること。
  2. 痴呆の人の「拘束」をどのような形にせよ原則的に認めないという考えを介護家族、医療・福祉関係者たちが持つこと。
  3. 「拘束」は避けられるものであり「拘束」しなくてすむような様々な介護上の工夫を試みること。
  4. 医療・福祉関係者の増員と関係者への痴呆の人の理解を深める教育を行うこと。
  5. 病院・施設の構造上の工夫をし、探知機などの機器を設置などすること。
  6. 病院・施設全体として「拘束」についての考え方を統一し、可能な限り「拘束」を行わないことを職員全員で確認し、それにそった対応をとること。
  7. 介護家族は医療・福祉サービスの利用に際し、痴呆の人に関する情報を的確に提供すること。
  8. 介護家族やボランティアを積極的に病院・施設に導入し、病院・施設を開放的にするとともに、「拘束」をなくすため病院・施設、介護家族、ボランティアらが共同して取り組むこと。
  9. 「拘束」をなくす全国各地での取組について情報交換すること。
  10. 「拘束」についての介護家族や職員からの相談の窓口を設けること。
  11. 「拘束」に関する実効性のある制度や法的規制を行うこと。

 5 実態の把握

身体拘束の廃止に向けて取り組むべき課題を明らかにし、具体的にどのように取り組んでいくのか検討を行うには、まず、その介護保険施設等を利用している個々の高齢者について、もう一度心身の状態を正確にアセスメントするとともに、現場の実態を把握した上で、身体拘束を必要としない状態をつくり出す方向を追求していくことが重要となります。

このため、例えば、身体拘束が行われている件数を拘束の種類ごとに把握する、利用者ごとに身体拘束が行われている状況やその理由を明らかにする、身体拘束に対する職員の意識を調査するといった取組が考えられます。

身体拘束の件数

No.

種類

件数

1F

2F

1

徘徊しないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。

 

 

 

 

2

転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。

 

 

 

 

3

自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。

 

 

 

 

4

点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。

 

 

 

 

5
 

点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける。


 


 


 


 

6

車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける。

 

 

 

 

7

立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する。

 

 

 

 

8

脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。

 

 

 

 

9

他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る。

 

 

 

 

10

行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。

 

 

 

 

11

自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。

 

 

 

 

 

 

 

 

利用者の状況

No.

氏名

身体拘束の状況

理由

種類、部位、内容

時間、期間

1

 

 

 

 

2

 

 

 

 

3

 

 

 

 

4

 

 

 

 

5

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 6 ケア方法の改善

個々の事例について、身体拘束を必要としないケアに向けた具体的な取組を行うためには、なぜ身体拘束が必要とされているのか、身体拘束につながる利用者の行動や状態がなぜ発生するのかを分析し、その人なりの理由や原因を徹底的に探り、除去することが必要となります。

このため、例えば、看護・介護等の記録や利用者をよく観察して気付いたことなどから問題行動等の原因について話し合い、個別分析の結果に基づいて、その原因を除去するためのケアの工夫について検討するといった取組が考えられます。

<個別分析の例>(エクセル:17KB)

<コラム>

ケア方法の改善に向けた取組の提案

船橋市特別養護老人ホーム朋松苑

副施設長  山口 定之

1.発生理由の把握

利用者はどのような理由によって転倒、転落、ずり落ち、チューブの抜去などの行為に至るのかを、個別の視点でよく観察することが第一歩だと思います。最も有効なのは、ある一定期間、常時つきっきりで観察担当の専門職員を配置し、観察に専念してもらうことではないでしょうか。

通常の勤務体制では観察要員の確保は困難ですから、意図的にそういう勤務を立てるなどの方策が必要となります。ヒヤリ・ハットの繰り返し報告者(同じヒヤリ・ハットを繰り返している利用者)や対応の困難な利用者については、夜間も含めてそのような観察をすることで利用者のおかれている気持ちに近づくことができ、比較的短期間に行動の理由が把握できることが期待されます。

もう一つの方法として、ヒヤリ・ハット報告などの記録を習慣付けて、そのような事が発生した場合に、その発生理由として考えられることを記録しておくことも考えられます。当施設においてもヒヤリ・ハット事故報告を習慣付けており、その書式の「発生理由として考えられること」欄には以下のような記録があります。

  • 足が弱いのに歩こうとして
  • 服を取ろうとして車いすから立ち上がる
  • 靴を履こうとしてかがんだら
  • 起立時にふらついた
  • 職員に遠慮して自分でやろうとして
  • 利用者同士で介助
  • 見守り介助中にコールで呼ばれてそちらに対応中
  • 手すり代わりにカーテンにつかまって
  • 床に落とした物を拾おうとして
  • ベッドリモコンとナースコールを間違えて操作
  • 寝起きで歩行にふらつき
  • 車いすブレーキのかけ忘れ
  • 歯磨きを取ろうとして
  • 歩行器に足をひっかけて
  • メガネを取ろうとして
  • ベッドの上に立ち上がり
  • 徘徊が続き疲れていた

など

これらを見ると、転倒や転落はいつ、どこででも起こり得ることが伝わってきます。

2.改善に向けての検討

拘束につながる行動の発生理由がある程度把握できたら、その理由を取り除く方法を検討します。環境や設備の工夫、介護や看護の在り方、接し方、健康管理、精神的な支えなどいろいろな角度からの検討をします。

この検討には二つの方法が考えられます。一つは環境や設備などの全体にかかわる検討と、もう一つは個別の検討です。当施設では前者の検討を環境整備委員会が行っており、事故の減少のための福祉用具の導入や施設の設備改善に向けた活動を担当しています。後者は施設サービス計画にて検討しています。発生件数が多い利用者については、ヒヤリ・ハット報告をもとにカンファレンスの場で過去の発生例を再確認し、現状の対応方法の確認、今後の対応方法の検討をします。これまでにも、車いすの変更、和室の設置、ベッドを低くしてベッド横にクッション材を置くなどの対応で改善できた例もあります。ただ、個別のカンファレンスは順番が来るまでに相当日数を要することが難点です。

3.今後の課題と提案

これらの方法によってもなお身体拘束をせざるを得ない場合が数例残ります。その場合に、初めに述べたように常時つきっきりの観察担当者を一時的に配置することで観察に心掛け、その理由を追求していくようにしたらよいのではないでしょうか。通常の業務を行いながらの観察体制ではなく、専門の職員を配置することによってより深くその利用者のことが理解できるようになり、結果として改善策を検討する材料がもたらされることになると思います。

 (1)ベッド柵

ベッドを柵(サイドレール)で囲む、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛るといった身体拘束は、体動が激しい利用者のベッドからの転落防止や、立位や歩行が不安定な利用者がベッドから降りようとしたときの転倒防止などを理由に行われています。

このため、例えば、寝返り方法や体動の変化について観察する、いつ、どのような状態でベッドから降りようとするのか、降りようとする理由や時間帯を明らかにすることなどから、降りて何かをしたいといった利用者の思いに沿って見守りや基本的ケアを徹底する、ベッドから転落しても骨折等をしないよう環境を整備する、筋力強化や歩行訓練により自立歩行の危険を少なくするといった対応方法について検討していく必要があります。

<工夫のポイント>

夜間不眠、精神的に不安定

→日中はベッドから離床するよう促す。

日中の適度な活動による刺激を増やし、生活のリズムを整える。

声かけ、見守り、巡回を多くする。

散歩等で気分転換する。

家族の協力を得て家族の面会を多くする、自宅への外泊を実施する。

など

ベッドからの転落

→ベッドの高さを低くする、ベッドの脇に衝撃を吸収するマットを敷く。

床や畳の上に直接寝具を敷く。

離床センサーを導入する。
(導入にあたっては事前に利用者や家族に説明し、導入することによって利用者に目に見えない拘束感を与えることにならないよう配慮する。)

歩行訓練や下肢筋力訓練を行う。

など

<身体拘束廃止に取り組んだ個別事例>

ベッドからの転落防止のベッド柵等について
~転落防止のためのベッド柵を外す試み~

               介護老人保健施設 栗ヶ沢デイホーム
                 作業療法士  田原 さやこ
                 介護福祉士  中島 典子

1.利用者の状況

81歳の女性で、要介護度5。病名:多発性脳梗塞

ADLの状況:身体的な機能障害に加え、精神・認知機能低下が著明である。柵につかまれば寝返りは自力で可能だが、起き上がりは要介助、端座位では強い前傾があるため、前方へ崩れ落ちる危険が大きい。手すり等つかまるものがあれば端座位からの立ち上がりは軽介助、歩行は手引きで5メートルほど可能だが車いすの駆動は全介助である。わずかな協力動作は見られるものの、セルフケアはほとんど全介助、排せつは尿閉があるため、バルーン挿入している。発動性に波があり、動作の契機把握が困難な状態である。

2.身体拘束に至った経過

入所前に入院していた病院では夜間ベッドからの転落事故があり、御家族の不安が強く、夜間ベッド4点柵を使用していた。転落時の状況は不明。当施設の入所当日は夜間の動きの予測が困難であったため、主治医の指示に加えて、御家族に「一時的な身体拘束に関する説明書及び同意書」への記入を頂いた後、転落防止を図るため4点柵を使用した(注)。

注:「当該入所者(利用者)又は他の入所者(利用者)等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合」に限定される。当施設においては基本的にはすべての入所者について身体拘束を廃止していく姿勢を堅持するとともに、例外規定の要件や手続の運用は厳格に行っている。

3.身体拘束廃止への取組

夜間の動きが把握できるまでは4点柵(写真1)を使用した。そして、夜間の動きを把握するために、ベッドから足を下ろした時点で反応するようにセンサー(赤外線センサー)を足元に設置した。センサーの選定は、足元からの転落の危険が大きいというリハスタッフの評価をもとに行った。当施設では、赤外線センサー(写真4)、床マットセンサー(写真5)、ベッドセンサー(写真6)を個々の状態に応じて使い分けている。

まず、夜間良眠を図るため、日中は離床を促し、活動への誘導を積極的に行った。周囲に興味が向かず、ぼんやりと過ごしていることが多いため、個別の対応も随時行った。入所当日はセンサーの反応は頻回で、夜間に6回みられた。センサー反応時に訪室すると、眠ったままベッドの右側から足がはみ出した状態であった。2日目からは、その都度姿勢を直す際に足と共に体全体を左に寄せるという対応で統一した。その結果、センサー反応回数は夜間に2回に減った。そこで4日目には2点中央柵及びセンサーを設置し、万一の転落に備えて足元にマットレスを敷く対応に変更した(写真2)。時折足のはみ出しによるセンサーの反応はあったが、それ以上の危険動作はなく、夜間良眠が図られた。御本人の夜間の状態、施設の対応を説明することで御家族の不安も軽減され、身体拘束廃止の理解が得られた。6日目からは2点頭部柵及びセンサー(写真3)の設置に変更し、身体拘束の廃止に至った。上記の対応によって、3週間後の退所日までの間、転落事故なく過ごされた。

4.事例のまとめ

本事例は、ベッドからの転落防止のために身体拘束が行われていたが、日中の活動への誘導、適切なセンサーの使用、夜間の状態の観察及び対応により、身体拘束を廃止することができた事例であった。要因として以下のことが考えられた。

  • ア リハスタッフによる転落の危険性の評価に沿ってケアの実施がなされたこと。
  • イ タイプの異なるセンサーから個々の状態に合ったものを選択できたこと。
  • ウ 夜間良眠を図るため、日中の活動に積極的に誘導したこと。
  • エ 家族の理解が得られたこと。
  • オ 多職種のチームアプローチがなされ意識の高揚があったこと。

写真1写真2

写真1 写真2(○はセンサー)

写真3

写真3(○はセンサー)

写真4写真5写真6

写真4 写真5 写真6

 (2)ミトン型手袋

手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつけるといった身体拘束は、点滴や経管栄養等のチューブを抜かないようにする、又は皮膚をかきむしらないようにするなどの理由で行われています。

このため、例えば、どのような状況で、なぜチューブを抜こうとするのか、なぜかゆみがあり、かきむしるのか、チューブが目障りなのか、不快感が強いのかなどその原因を明らかにすることから、チューブの違和感を少なくする、皮膚の状態を改善するといった対応方法について検討していく必要があります。

<工夫のポイント>

チューブの抜去
(経管栄養用チューブ、点滴チューブ、導尿用バルーンチューブ、経皮胃ろうチューブ など)

→チューブの形状や固定位置を工夫する。
(太さ、長さ、見えないようにする、手に触れないようにする。)

かぶれにくい固定テープを選択する。

ベッド周辺の装飾を工夫するなど、チューブから関心をそらす。

点滴等の時間を工夫し、職員の目の届く場所で行う。

嚥下訓練を行うなど、口から食べるための工夫をする。など

皮膚のかゆみ

→入浴等で皮膚の清潔を保つ。

入浴剤や洗うスポンジ等を工夫する。

入浴後にはクリームを塗るなど、皮膚の保湿に心掛ける。

皮膚疾患の適切な治療を受ける。

爪を切る。

清潔で、肌触りのよい寝具、寝巻きを使用する。

かゆみを忘れるような活動で、気分転換を図る。

レクリエーションなどの活動に関心を向ける。など

 (3)Y字型拘束帯

車いすを使用する際にY字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつけるといった身体拘束は、車いすからのずり落ち防止や、車いすからの急な立ち上がりによる転倒防止などの理由で行われています。

このため、例えば、どのような状況で、なぜ車いすからずり落ちるのか、なぜ立ち上がろうとするのかなどその原因を明らかにすることから、座位保持や歩行能力の改善、適切な車いすの選択といった対応方法について検討していく必要があります。

<工夫のポイント>

車いすの選択

→車いすは使用者の体の一部であるという視点に立って、長時間座っていても疲労しない、褥瘡のできない、ずり落ちない車いすを選ぶ。

ずり落ち

→車いすに滑り止めシート、クッション等を敷く。

足が床面について安定するよう足台を置く、車いすを調節する。

車いすに座っている時間を短くする。
(いすに移乗する、起床の順番を工夫する)など

立ち上がり

→適切な時間帯にトイレ誘導、おむつ交換を行う。

職員の目が届く場所にいす等を置いて見守る。

歩行訓練や下肢筋力訓練を行う。

栄養状態を改善する。など

<コラム>

指定介護老人福祉施設における車いすY字ベルト外し特別養護老人ホーム 太陽の家

医師  守 正英

今まで、車いすに乗ったらY字ベルト・胸ベルトを着用するのが当たり前の感覚でいた。ずり落ち、前屈み、物を取ろうとしたときの転落転倒の予防、あるいは立ち上がりによる転倒予防などが主な理由であった。これは、ほとんど介護する側からの理由である。

介護保険制度において身体拘束廃止が求められても、車いすのベルトについては、自動車の安全ベルトと同じ考えからか、あまり積極的な対策はとられなかったが、施設長の交替等によって平成15年4月に見直しが始まった。

車いすは使用者の体の一部である。よって、

  1. 一日中乗っていても疲労しない、ずり落ちのない、安定した操作が可能なものとする。この基本に戻って、車いす自体の再検討をする。
  2. とりあえず、Y字ベルトなどベルトを取り去ってしまう。
  3. 前記の1・2を実行した結果、何が残り、どんな対策が必要か考え、また、本人とも話し合う。

車いすに自分で移乗可能な人、介助でなければ乗れない人、車いすの操作が自分でできる人、乗っても自分で動かせない人、車いすに乗っているということの自覚のない人など、車いす使用者の生活機能の程度はまちまちであるが、こうした取組によって、車いすのベルトは大幅に減少した。

一番の収穫はY字ベルトをとにかく外してみたことで、その結果、あまり必要ないというか、介護する側の自己防衛感覚が強すぎたことが分かったのである。

Y字ベルトを外した後、ずり落ち(擦過傷・打撲)、立ち上がり転倒(打撲・皮下出血)、前屈み転倒(顔面打撲・皮下出血)、麻痺側の巻き込みといった事故が起こった。いずれも軽傷で、お岩様になったケースもあるが、たいした加療を要しない程度である。

その間の対策として、次のようなことを行っている。

  1. 本人に状況(Y字ベルトを外すこと)を、何度も何度も話す。
  2. 家族に連絡する。
  3. 介護者間の認識の、共有を図る。
    (認識が一致しないと、介護者の対応がまちまちになる。)
  4. 責任問題等で、現状の変更をいやがる介護者は多い。介護者に取り組むことを納得させる。(施設長等の責任者の意思が大切。)
  5. 車いすの高さ、大きさ等のサイズ合わせ。滑り止めマット、クッション等による車いすとのマッチング。ステップ調整。
  6. 介護者の見回り回数の増加による声かけ、姿勢調整、移動介助。
  7. 介護者が日誌をつけたりする業務を、車いす使用者の集まる場所で行う。

以上が経過であるが、まとめとして、

  1. 施設の責任者の意欲と、強い継続した実行意思。
  2. 介護者の意識改革による改善意識の、継続した共有と実行。
  3. 実行・観察・記録・検証・計画・実行の繰り返しの連続。
  4. 車いす等用具のマッチング。

が、Y字ベルト外しには重要であると認識した。

現在、車いすの種類は沢山あるが、いまだに、車いすは体の一部という発想が極めて乏しい現状にある。在宅の要介護者には車いすの貸与制度があるが、施設入所者にはなく、施設持ちとなるため、車いすの精度は施設の意識に左右される。20台を越す車いすのマッチング・整備維持には、専属しかも専門の職員配置が必要となる。車いす使用の要介護者が自分にあった車いすに乗れるよう、今後、介護保険の改善を求めたい。

今後も、車いすのベルトについて検討を加え、ベルトのないQOLに向けて努力するとともに、新たに入所される車いす使用者には、ベルトは存在しないものとして最初から対処してゆくこととしたい。

 (4)介護衣(つなぎ服)

介護衣(つなぎ服)を着せることによる身体拘束は、脱衣やおむつはずしを制限するなどの理由で行われています。介護衣の発想は、利用者からではなく、介護する者のためにある最たるものです。まず、着せないことから始めましょう。

このため、例えば、どのような状況で、なぜおむつをはずそうとするのか、なぜかゆみがあるのかなど不快感の原因を明らかにすることから、その人に合った排せつケアを徹底する、皮膚の状態を改善するといった対応方法について検討していく必要があります。

<工夫のポイント>

おむつはずし

→おむつの交換回数を増やす。

使用するおむつ等の種類や素材を工夫する。

おむつ交換時に、洗浄を行う。

物を口に運ぶほうの手に、タオルなど興味を引くものを渡す。

排せつパターンを把握して、トイレ誘導を行う。など

 (5)向精神薬

自傷行為や他の利用者への暴力行為などの問題行動が出現した際に、向精神薬(睡眠剤・安定剤)を過剰に服用させるといった身体拘束は、利用者の行動を落ち着かせるなどの理由で行われています。

このため、例えば、いつ、どのような状況で問題行動が起きるのか、なぜ他の利用者とのトラブルが発生するのかなどその原因を明らかにすることから、精神の安定を図る、見守りや基本的ケアを徹底するといった対応方法について検討していく必要があります。

<工夫のポイント>

暴力行為等の問題行動

→表情、行動、会話などを観察する。

興奮時は否定的な会話は避ける。

独り言をよく聞き、興奮を助長するようなことはいわない。

職員の関わり方、態度や言葉づかい(命令的な口調等)を見直す。

会話や散歩などの活動を通して、他に関心を向ける。など

 

<コラム>

薬剤の過剰な使用を防止するためのチェック表
総泉病院長  高野 喜久雄

1.薬の副作用は怖い

薬は毒だからできるだけ服用しない方が良いといっても高齢者はかなり薬を飲んでいるのが現状である。副作用はもちろん本人にあわない薬との反応(アレルギー反応)を起こすこともあるが、いつの間にか薬剤が血中に多量に貯留してしまうこともある。多くの高齢者は腎機能が加齢とともに低下し、尿中からの薬物の排せつが低下したりすることが原因であったり、また脂溶性の薬物が脂肪に蓄積するためといわれる。

血中に薬剤が増加することは血中薬物濃度測定によってモニターすることもできるものがあるが、すべて血中の薬剤を測定できるシステムが完成しているわけではなく、また血中濃度が臨床効果と一致しないものもあります。

高齢者には少量から始め、次第に増量してみるというが、少なければ効果がないと思いまた、効きすぎてしまっても怖いということが家人や一般の人にあると思われる。

2.薬の臨床モニター表とは

よく家人に「薬の効果はどうですか?」と聞くとなんとなく「ええ。」とあいまいに答えることはあっても、本当はどうであろうか。

その時でなく振り返っても印象での評価はあまりあてにならない。そこで下図(エクセル:34KB)にあるような方式で記録してもらうと、かなり再現性のある結果が得られて、外来患者や投薬し始めた入院中の患者などの薬物モニターに役立っている。

まず午前、午後、夜に分けて記入してもらう。私は起きてから昼までを午前、昼から夕食までを午後、夕食から翌朝までを夜とする。ただしこれは、時間で分けてもよい。なお、良い悪いについては定義など決めず直感で書いてもらう。また、チェックする人がたびたび変わるとまずいのではと思う人もいるが、気にせず直感で書いてくださいと説明する。

このような書き方でかなり薬の効果、副作用のチェックがされ特に興奮のおさまり方、また筋力低下、歩行障害、よだれなどの出現もチェックされる。

【薬剤の過剰な使用を防止するためのチェック表】(エクセル:34KB)

 (6)居室等への隔離

自分の意思で開けることのできない居室等への隔離といった身体拘束は、徘徊や他の利用者への暴力行為といった問題行動を防止するなどの理由で行われています。問題行動といわれる行動は、介護する側にとっては問題となるものですが、行動する本人にとっては問題となるものではありません。

このため、例えば、いつ、どのような状況で徘徊するのかを明らかにすることや、その利用者の生活パターン・生活歴などから、徘徊は何を意味するのか、なぜ異食するのかといったことを利用者の目線で考え、見守りや基本的ケアを徹底する、精神の安定を図るといった対応方法について検討していく必要があります。

<工夫のポイント>

徘徊

→一緒に歩いたり、疲れる前にお茶に誘うなど気分転換を図る。

家族から利用者の生活歴等を聞き、徘徊の理由に応じた声かけをする。

日中の適度な活動を促し、運動量を増やす。

目を見て話かける、手を握るなどスキンシップを図る。など

異食

→異食するおそれがあるものは、周囲に置かない。

お茶に誘う、少量のお菓子を食べてもらうなど気分転換を図る。

常に所在の確認をする。

危険物は、施錠した場所等で管理する。など

 7 環境の整備

身体拘束を必要としないケアを実現するためには、ケア方法の改善に取り組むことに加え、そうした取組を支え、あるいは容易にしたり、負担を軽減したりするための福祉用具や施設の居住環境といった、いわばハード面での改善を進めるとともに、利用者の立場になって業務の在り方を見直し、スタッフ全員で助け合える柔軟性のある応援態勢を確保するなど望ましいケアを支える環境づくりを行うことが重要となります。

このため、例えば、手すりをつける、足元に物を置かない、ベッドの高さを低くする、利用者の体に合った車いすやマット等を取り入れるといった取組が考えられます。

また、見守りや利用者と関わる時間を増やすために、シーツ交換作業に時間がかからないようにシーツを改善するなど日常業務の見直しを行う、業務体制を見直して、職員の見守りが手薄になる早朝に重点的に職員を配置するといった取組や、看護・介護等の記録を整備し、職員間で情報の共有化を図るといった取組が考えられます。

身体拘束廃止に向けたハード面の役割

直接的な効果

  • 車いすやベッド等の福祉用具を利用者の状態に合致するよう適切に選択、調整することで安楽と安全が得られる。
  • 衝撃の少ない床材(下地)の使用や、柱の角の工夫等により、転倒等の影響を軽減できる。

間接的な効果

  • 心理的な安定を得られるような居住環境を作ること等により、問題行動そのものを緩和できる。


居住環境の改善

例えば、生活単位を小規模化した上で、固定的に配属されるスタッフがこれに対応する、個室化等により利用者にとって馴染みのある個性的な空間を作るといった取組などが考えられる。

<コラム>

療養環境の整備について(ハード面及びソフト面の工夫)

初富保健病院 看護部長  小島 英子
 

当院は、666床の療養病床のうち、496床が介護保険対応、170床が医療保険対応の病院である。平成15年7月28日現在では平均年齢
79.5歳、平均在院日数1139日である。また、何らかの痴呆症を呈する患者は約半数を占める。

当院の運営方針の一つに「身体拘束をしません」がある。動くこと、歩くことのできる自由を尊重している。当院では、平成4年から拘束廃止に取り組んできた。今では、生命に危険があり使用を余儀なくされるケース及び、ベッド柵の使用を除き、あらゆる場面での拘束はゼロに近い状況になってきた。当院では拘束の使用は院長の許可が必要である。したがって、当然のことではあるが、必要性のアセスメント並びにケアプランを立案している。患者のQOLを保ちながら、なおかつ事故のない安全で快適な生活を援助することに心掛けている。

当院でのインシデントレポート集計をみると、転倒転落は最も多く全体の約40%を占めている。(平成14年度集計)結果は、異常なしがほとんどだが、骨折・裂傷(縫合)に至ったケースは2~3%ある。

表記について当院が取り組んでいることについて紹介する。

※床材の選択・トイレの改修

当院では、平成14年12月から平成15年4月にかけて、改修工事が行われた。転倒転落の集計結果もふまえて、転倒転落しても危害が最小限ですむように、との考えから緩衝効果のある床材を選択した。

床材は複合床システムを取り入れ、表面材はソフトインレイドビニール床シート2mm、下地は衝撃緩和効果のあるウエルガードシステム6mmで計8mmの厚さがある。4人床の病室、廊下、トイレなど、患者が生活する場所に使用されている。(写真1)また、個室病棟では、絨毯を敷き、転倒転落時に危害が少なくてすむような工夫がされている。

トイレについては、障害があっても可能な限り自分でできるようにとの考えから、ドアーは引き戸とし健側が使用できるように介助バーを左右に取り付けた。またトイレットペーパーホルダーの位置にも配慮した。ホルダーはペーパーが切りやすいように、蓋が硬いものを選択した。(写真2)車いすを使用しても十分な広さである。

写真1

写真2

 

見守りの工夫

はじめに当院で考える「見守り」の定義を述べておく。

監視、つまり動かないで!立たないで!じっとしていて!転ばないで!ではなく、『どこへいらっしゃいますか?私に何かお手伝いできることがありますか?』というように、患者の行動を温かく支援しますよ!ということである。(写真3)ときには、一人の介助者で10人前後の患者を担当しなければならないこともあり、記録をとりながら見守ることもある。転倒の危険があっても徘徊し続ける患者、目が離せない状況など、制約された人員配置の中でどうやれば安全なケアができるのか、チームが知恵を出し合い協力して可能な限り付き添っている。またアクティビティケアを取り入れることで、転倒転落が防止できるケースも多い。しかし、「一日をどう過ごしていただくか?」という視点での見守りは十分とはいえない。また、身体拘束はしていないものの言葉の抑制につながっている場合など課題は残っている。

写真3

おわりに、当院では、高齢者が障害をもちながらでもその人らしく自立した生活ができることを最大限支援していきたいと考えている。ハード面での環境は整備できても、当院の「拘束をしません」という精神を実践に結び付ける職員一人一人の意識を高めていくことが重要である。今後は看護・介護職にとどまらず、他の職員とも連携をとることが重要であると考えている。当院の取組が他施設の参考になれば幸いである。

 8 リスクマネジメント

利用者の安心や安全を確保することは、介護保険施設等におけるサービスの提供に当たっての基本であることから、身体拘束の廃止に向けた取組においても、サービスを提供する過程における事故の未然防止や、万が一にも発生した場合の対応などのリスクマネジメントが重要となります。

このため、例えば、食事・入浴・移動などの場面ごとにどのような危険が生じるかを予測し、危険を回避する対策を併せて実施する、施設全体として、想定される事故の種類・頻度・起きた場合の危険度によって、そのパターンの把握に努め、対策を立てて事故防止を図る、それを定期的に見直し、繰り返し実行する、緊急時の対応マニュアルを作成し、実際に対応できるよう訓練しておくといった取組が考えられます。

なお、リスクマネジメントは、介護保険施設等の利用者についてだけではなく、そこに働く職員についても同様に行うことが必要となります。

<参考>

転倒を未然に防ぐためのアセスメント例

  • 視覚(視力、視野など)、聴覚、バランス感覚などの低下はどの程度か
  • 拘縮、麻痺などによる運動機能の低下はどの程度か
  • 起居・移動動作はどのように行っているか
  • 体調(低血圧、めまい、発熱など)、パーキンソン病や痴呆症などの疾病の状況はどうか
  • 転倒を起こすような薬(催眠剤、降圧剤、抗うつ剤、狭心症治療剤など)は使用していないか
  • 生活環境(床、照明、段差、手すりなどの施設・設備環境や、介護用具、衣服、履き物など)はどうか
  • 転倒したことがある場合、いつ、どのような状況で、何が原因で転倒を起こしたのか

「身体拘束ゼロへの手引き」より

<参考>

事故が発生した場合の対応

事故発生(発見)直後は、救急搬送の要請など、利用者の生命・身体の安全を最優先に対応する必要がある。

利用者の生命・身体の安全を確保したうえで、速やかに家族に連絡をとり、その時点で明らかになっている範囲で事故の状況を説明し、当面の対応を協議する。なお、事故の内容によっては、事故現場等を保存する必要もある。さらに、市町村等への連絡を行うことが必要な場合もありうる。

事故に至る経緯、事故の態様、事故後の経過、事故の原因等を整理・分析する。その際には、アセスメントの実施から施設サービス計画等の作成までの一連の過程や、それに基づくサービス提供に関する記録等に基づいて行うことが必要である。

利用者や家族に対し、3の結果に基づいて、事故に至る経緯その他の事情を説明する。

事故の原因に応じて、将来の事故防止対策を検討する。また、事故責任が当該施設等にあることが判明している場合には、損害賠償を速やかに行う。

「身体拘束ゼロへの手引き」より

<コラム>

リスクマネジメント体制の構築

特別養護老人ホーム プレーゲ本埜

施設長  湯川 智美

厚生労働省社会援護局福祉基盤課内に設置された「福祉サービスにおける危機管理に関する検討会」にて提示された指針では、〇福祉サービスにおいて利用者の安心や安全を確保することが基本であり、事故防止対策を中心とした福祉サービスにおける危機管理体制の確立が急務となっている。また、〇一方、福祉サービスは利用者の日常生活全般に対する支援や発育の助長を促すことを目的に提供するものであり、危機管理体制のあり方についてこうした福祉サービスの特性を踏まえた視点と対応が必要である。と示されている。

つまり、事業所は「安全配慮義務」を認知し、組織的なリスクマネジメント体制を確立することが必要となる。それは単に事故防止、安全対策という限定されたものだけではなく、サービスの質的向上を目的とし、組織内において理念、基本方針及び目標を基盤とし、有機的に機能し合える経営品質管理を構築することであると言えよう。ハインリッヒ法則でも示されているとおり事故発生の背景には未然に防ぎ得たニアミスが存在しており、事故発生の予兆をできる限り予見、回避する「予防処置」のシステムを構築する必要があり、「インシデントレポートシステム」はリスクの予見、回避の有益な情報と言える。また、不幸にも事故が発生した場合、処理をするという発想だけではなく、本質を客観的、正確に把握、分析を行い、事故発生原因を除去するという専門職としての検証に努め、PDCA管理サイクル(計画Plan→実施Do→確認Check→対策実行Action)を適切に稼動させる根本的な再防止対策「是正処置」のシステムを構築する必要性がある。

事故発生における危険要因の分析の視点として、環境要因、職員要因、本人要因と言われており、環境要因は、経営者自らが危機管理の必要性を認識し、現場職員と連携を取り合いながら課題の改善を行うことが要求される。職員要因においては、人間はエラーをおこすという前提に立ち、個人の事故防止努力の支援からも組織的に取り組む必要性があり、まずは提供するサービスの標準化を明確化し、職場に対しての研修を恒常的に行う必要があると思われる。次に、本人要因については、利用者が持っているリスクを把握するつまりアセスメントすることを目的とし個別介護計画と連動させる。それにより、利用者個別のリスクの判断基準が統一され、利害関係者への情報共有にも繋げることができると考えられる。身体拘束廃止の取り組みを行うことにより、反対に事故が軽減された事例も報告がなされている。それは、危険を回避する、安全を確保する視点のみで捉えていたことから、身体拘束を行う弊害を認知し、個々の利用者尊厳を重視した画一的ではなく一人ひとりに対応したサービスの提供、サービス質的向上を実践するため、個別性を重視した結果ではないだろうか。

最後に、利用者の安全、安心を確保することは、福祉サービスを提供する実践の場における最優先事項であり、考え方の順序としては回避・軽減・保持・移転といった4つの基本的な流れがあると言われており、リスク移転の視点からも対応を講じる必要性がある。万が一事故が発生した場合、組織全体での緊急時の対応策の明文化、周知徹底を図ること。利害関係者への事実を伝達し、なによりも誠意をもった姿勢での対応が重要となり、また一方では、保険、補償についても整備する必要があると思われる。

 

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所属課室:健康福祉部高齢者福祉課法人支援班

電話番号:043-223-2350

ファックス番号:043-227-0050

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