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更新日:令和5(2023)年7月24日

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イネカメムシの生態と防除

1.はじめに

千葉県の水稲栽培で問題となる斑点米カメムシ類のなかで、最近はイネカメムシの発生数が増加傾向にあります。県内での本種の生息は古くから確認されていましたが、平成30年以降、従来の優占種であったアカスジカスミカメやクモヘリカメムシなどを上回る発生が認められています。本種の発生が目立つ地域は限定されていますが、これらの地域においては年によって多発生し、減収の原因となります。
本種は他の斑点米カメムシ類と生態や加害様式が異なるため、従来の斑点米対策からの変更を検討する必要があります。ここでは、イネカメムシの生態に基づく対策技術のポイントについて紹介します。

イネカメムシ成虫の画像

写真1イネカメムシ成虫

基部斑点米の被害の発生した玄米の画像

写真2基部斑点米の被害の発生した玄米

2.従来の斑点米カメムシ類とイネカメムシの生態の違い

アカスジカスミカメやアカヒゲホソミドリカスミカメなどのカスミカメムシ類は、基本的には水田内では増殖せず、主にイネ科雑草上で越冬した成虫が水田周辺の雑草地で増殖し、水田に侵入して稲穂を加害します。「雑草派」カメムシともいえるこの特徴により、広大な雑草地の近隣に位置する水田において被害が多くなります。

クモヘリカメムシはカスミカメムシ類よりも水稲を好み、水田でも増殖するため「稲派」カメムシと考えられますが、カスミカメムシ類と同様、イネ科雑草も利用するため、これらの種に対する防除対策としては水田周辺の除草が有効で、特にカスミカメムシ類については雑草地での発生状況を基にした発生予察も可能でした。

これらに対して、イネカメムシは雑草を寄主として利用する傾向が非常に低く、越冬場所(林縁の落葉下等)から離脱した成虫が出穂直後の水田に直接飛来して産卵する特徴があるようです。このため、防除対策として雑草の除去は有効ではなく、発生予察も難しくなります(図1)。周辺で出穂を迎える水田へと順次飛来し、常にイネを追い求める様子は「超稲派」カメムシと表現しても良いでしょう。

また、カスミカメムシ類やクモヘリカメムシが主に籾の縫合部や割れ籾の隙間から加害して側部斑点米を発生させて品質低下型被害を招くのに対し、イネカメムシでは成虫が出穂直後の穂の小穂軸を加害することで不稔籾を発生させたり、その後、生育する幼虫が多くの基部斑点米(写真1)を発生させたりすることで、減収型被害の原因となる特徴があります。

図1

 

図1畦畔等雑草地(7月上旬)における斑点米カメムシ類すくい取り捕獲虫数

出典:安江ら(2022)千葉県農林総研研報より抜粋

3.「近年」害虫化した理由から考える本種の防除対策

イネカメムシの生態の詳細については関係各機関による研究が継続中ですが、「超稲派」の本種にとっては出穂直後の稲穂が非常に利用価値の高い資源となっている可能性が高いようです。近年の担い手減少に伴って水稲の作型が分散化したことや、ニーズの多様化に伴って極早生品種から超晩生品種まで栽培品種が増加したことによって、地域内で出穂期を迎える水田が連続的に出現する様になったことが本種の増加に寄与したのではないかと考えられます。

また、これまで主要な問題であった品質低下型の被害を招く斑点米カメムシ類に対しては、穂揃期から乳熟期後半にかけて複数回の薬剤防除を実施することが推奨されてきました。防除コストの削減を考慮した場合には、特に乳熟期後半の防除が重要視されてきました。しかしこの防除体系ではイネカメムシの加害時期である出穂期の水稲を守ることができないため、被害が甚大化した可能性が考えられます。
イネカメムシに対しては、出穂期前にジノテフラン剤やエチプロール剤等を使用することにより、出穂直後の稲穂への加害を防ぐ早期防除が重要です。特に本種による被害の多い地域では指導機関への相談をお勧めします。

4.おわりに

「超稲派」カメムシというイネカメムシの特徴は、裏を返せばイネに対する依存度が非常に高いことを表します。本種の生態を理解し、出穂期のイネを保護する防除対策をとることにより、本種の一番の弱点を突くことが可能となります。多発生地域では引き続き警戒が必要ですが、出穂の早い水田において重点的な対策をとることにより、本種による被害の早期鎮静化を目指してください。

 

初掲載:令和5年6月

担い手支援課 専門普及指導室

上席普及指導員 清水 健

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