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更新日:令和6(2024)年1月10日

ページ番号:626140

スマート機器を組み合わせた牛の分娩監視(事例紹介)

1.はじめに

千葉県の繁殖和牛頭数は、令和5年2月時点で2,600頭であり、安房地域は県内で唯一和牛の改良組合がある繁殖和牛の産地です。
和牛繁殖経営の中で、特に事故が多いのが分娩です。和牛は約1年に1回しか分娩をしないため、分娩事故による死産や母体の損傷は経営に大きく影響します。そのため、分娩予定日が近づくと農家は頻繁に牛の観察を行いますが、飼養頭数が多く、分娩監視が連続したり、牛舎と自宅が離れていたりする場合は、農家の肉体的負担が大きくなることから、分娩監視作業の省力化が望まれていました。
近年、スマート農業技術の普及により、遠隔で牛の状態を観察できる技術が導入されています。本項では、分娩事故の予防と省力化の両立にむけ、分娩監視温度センサーと分娩監視カメラを併せて導入し、効率的に活用している、管内の農家の事例を紹介します。
試験では、チェーンで繋ぐタイストール牛舎で飼養している搾乳牛にシステムを装着し、発情兆候、疾病および異常の検知精度を目視観察と比較しました。なお、発情の真偽は、直腸検査や血液中のプロジェステロン値の測定により判断しました。

2.システムの概要

(1)分娩監視温度センサー(写真1)

分娩監視温度センサーは、分娩が近い母牛の膣内に無線式の温度センサーを挿入することで、分娩を予測・検知できるシステムです。温度センサーのデータは、子機を経由して親機に送られ、体温の変化から分娩の兆候を知らせる段取り通報及び1次破水により温度センサーが体外へ排出されたことを知らせる駆け付け通報がスマートフォン等に通知されます。

ストッパーを装着した分娩監視温度センサーの写真

写真1ストッパーを装着した分娩監視温度センサー(写真提供 千葉県畜産総合研究センター)

(2)分娩監視カメラ(写真2)

分娩監視カメラは、分娩房等に設置し、分娩の兆候を確認したり、体調不良等の注意牛の近くに設置し様子を確認したりするとき等に活用できます。カメラは、SIMを内蔵しており、スマートフォンやパソコン・タブレットを活用していつでも、どこからでも牛舎の様子が確認できます。分娩開始から進行が順調かを確認するため30分から1時間ごとに巡回しますが、分娩監視カメラを導入することで、巡回頻度を減らすことができます。

牛舎に設置された分娩監視カメラの写真

写真2牛舎に設置された分娩監視カメラ

3.導入事例

事例の農家は、母牛の飼養頭数50頭規模で、分娩監視温度センサー3台(親機1台、子機1台、温度センサー3台)と分娩監視カメラ2台を導入しました。
両システムの導入前は、分娩予定日の数日前から、見回り回数を増やすなど対応していました。しかし見ていない間に生まれていたことや、発見が遅れ子牛が死んでしまっていることもありました。
分娩監視温度センサーの導入により、分娩の準備を前もって行えるようになるとともに、分娩の見逃しがなくなりました。しかし、挿入のタイミングにより段取り通報が来ないこともある不安や観察のさらなる省力かにむけ、分娩監視カメラを導入しました。
カメラの導入前は分娩監視温度センサーからの駆け付け通報直後に1回、その後分娩まで30分から1時間おきに巡回していましたが、カメラの導入により、駆け付け通報直後に1回巡回、その後は分娩までこまめにカメラで確認するようになり、夜間の巡回も減りました。
両システムの導入により、分娩発見の遅れによる事故はほとんどなくなりました。併せて、いつでも牛の状態を把握できることから導入農家からは「安心して、日々の作業に取り組むことができる」いう言葉が聞かれました。

4.導入コストと効果について

分娩予定が重なり温度センサーの台数が足りない場合は、牛舎内での観察が必要になります。システムの機能を生かすためには、分娩が集中しないように工夫することも大事です。
分娩監視温度センサーの導入費用は、親機1台、子機1台、温度センサー3台等で税込み価格で488,950円、ランニングコストは、基本料金、監視料含めて月額6,490円、年間77,880円です。分娩監視カメラは、1台当たりの費用は税込み価格が198,000円、年間のランニングコストが43,560円です。
分娩監視温度センサー(親機、子機、温度センサー3台等)と分娩監視カメラ2台の両方を温度センサーの電池寿命とされる5年間使った場合、年間の費用は約18万円かかる計算となります。令和5年度の千葉家畜市場のスモールの価格の黒毛和種の平均は、約35万円ですので、年間で1頭でも事故が少なくなれば経営的にはメリットとなります。
併せて、見回りの回数を減らすことができるので労働時間削減になり、畜産農家の肉体的負担軽減になることも大きなメリットです。

5.留意点

  • 牛への負担軽減のため、できるだけ分娩予定日に近い日に温度センサーの挿入を行いますが、分娩までの日にちがあまりに近いと、体温が下がった事が感知されず段取り通報が来ず、駆け付け通報がくる場合があります。
  • 分娩予定日から逆算して温度センサーを挿入しますが、分娩予定が早まると温度センサーを挿入する前に分娩を迎えてしまうことがあります。
  • 放牧している牧場では放牧場が広く、温度センサーと子機の距離が離れすぎてしまうとシステムの通知が来ず、稀に放牧場で分娩してしまうことがあるようです。
  • 神経質な牛に対しては、温度センサーを挿入することができませんが、カメラがあれば分娩の確認ができるので便利という声がありました。

6.まとめ

分娩監視温度センサーに加えて分娩監視カメラを組み合わせて使用することで省力化につながり、温度センサーが挿入できない個体についても分娩監視カメラで観察することができます。事故はなく効率的な生産が可能になりました。
スマート機器の活用により生産性を向上させ、労働者の省力化につなげることができます。

初掲載:令和5年12月
安房農業事務所改良普及課
南房総・鋸南グループ
普及技術員 中橋春香
電話番号:0470-22-8132

お問い合わせ

所属課室:農林水産部担い手支援課専門普及指導室

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