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更新日:令和7(2025)年12月3日
ページ番号:809291
一般区分
佳作(内閣府)
千葉県知事最優秀賞
藤岡 倫奈(ふじおか みちな)
私には精神の障害がある。そのことを自分の中で認めて、受容できるまでには随分と時間がかかった。
私が精神の障害を発症したのは、高校二年生の時だ。いわゆる「名の知れた」大学に行かなければいけないという偏った価値観を持っていた私は、大学受験の勉強中に、とても強いプレッシャーを感じて、精神の障害を発症した。その後、学校推薦で大学には入学できたが、自己肯定感の低さから就職活動についていくことができなかった。両親には経済的な負担をかけたが、大学院に入学することにした。しかし、そこでも修士論文を書かなければいけないというプレッシャーを感じ、体調を崩して、入院することになった。退院後、大学院は中退し、アルバイトで色々な経験をさせていただいた。とはいえ、常に体調不良にならないかという不安と背中合わせの状態だった。
精神の障害があるということを恥ずかしく思い、自己肯定感が低かった当時の私は、なんとか中学校、高等学校、大学の同級生と同じように「名の知れた」企業で働くことはできないかと考え、あがいていた。
でも、そんな生活は長くは続かず、再び入院し、そのまま自宅にひきこもるようになった。五年間ほど引きこもった後、今の主治医に出会った。「自分が変わらなければ何も変わらない」ということを主治医は教えてくれた。
それから、私は精神の障害があることを受け入れて働くということを目指し、就労移行支援事業所に通い始めた。同時に精神障害者保健福祉手帳を取得した。しかし、当初は自分が精神障害者であるということを認めることは辛かった。
就労移行支援事業所で、自分を知るためのワークやスタッフとの面談を通して、私は少しずつ自分自身の障害について向き合うことが出来るようになってきた。
コロナ禍で見つけた職場は小学校だった。私はトイレ掃除をしたり、児童が使う宿題のプリントを印刷したり、児童向けのイベントのチラシをクラスに配布したりする仕事を任された。
小学校で一緒に働く人たちは、精神の障害のない先生達だった。でも、先生達は精神の障害がある私と対等にコミュニケーションをとってくれた。先生達と一緒に働いていく中で私は「働くことの大切さ」や「お給料をもらうことの有難さ」を感じることができるようになった。同時に、小学校は自宅にはない私の居場所になった。自宅でうまくいかないことがあっても、小学校に行けば私が任されている仕事と居場所があった。私にとって、「働く」ことは、チームで協力して行動していくことであり、そこには確実にやりがいがあった。
その後、私は小学校を退職し、事務の補助の仕事に就くことになった。今年で三年目である。私の所属する課には精神の障害がある人は私だけで、小学校で働いていた時と同じように、精神の障害のない人達と一緒に仕事をしている。今の職場も小学校と同様に、私にとって大切な居場所である。今の私は、自分に精神の障害があるということに恥ずかしさを感じていない。障害のある・なしに関わらず一緒にチームで仕事をすることはとても楽しく、私にとってかけがえのない経験となっている。
また、私は、二〇二二年五月に実家を離れて、障害者グループホームで生活することを決めた。入居当初は、掃除、洗濯、炊事等の家事が一切できなかったが、ルームメイトや世話人さん達に恵まれ、徐々に家事も出来るようになった。ルームメイトも世話人さん達も、私のことを精神の障害を持った人としてではなく、一人の人間として向き合ってくれた。また、様々な背景を持つルームメイトとの関わりを通じて、障害者福祉に関わる仕事がしたいと思うようになった。その願いを実現させるために、現在通信制大学で勉強している。二回目の大学生生活は仕事と両立しながらで、大変に思うこともあるが、初めて自分自身がやりたいと思ったことを学ぶことは楽しい。
三年一ヶ月の障害者グループホームでの生活を経て、私は今年の六月から大切な人生のパートナーと一緒に暮らしている。パートナーもまた精神の障害を持っている。しかし、パートナーはそのことと向き合い、自分自身が本当にやりたいと思った事業を立ち上げるために努力を重ねている。私もパートナーの事業の一部を手伝いたいと思いながら、日々生活をしている。パートナーの事業を支えてくれている人達は沢山いる。その人達は、精神の障害を持っている人もいるし、精神の障害を持っていない人もいる。障害のある・なしに関わらず、皆、事業の立ち上げに向け、私とパートナーを支えてくれている。
大切なのは、障害のある・なしではないと私は感じている。お互いを尊重・尊敬して、「人と人」として向き合うこと。そうした経験を積み重ねることで、私はより生きやすくなり、自分自身を認めることが出来るようになってきた。
今、私には自分自身の人生を生きているという実感がある。そのような実感を持てていることがとても意義深いことだ。「今を生きる」ことを忘れずに、これからも毎日を大切に紡いでいきたい。
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