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更新日:令和2(2020)年2月27日

「「地域で暮らす」ということ」(2019年度心の輪を広げる体験作文入賞作品)

「「地域で暮らす」ということ」

一般区分

千葉県知事最優秀賞

主婦
鈴木 祥子(すずき やすこ)

 

廉太郎は、今夜も家の窓から外を眺めている。兄が大学から、そして父が職場から帰ってくるのを待っているのだ。待っている間、通りがかりの近所の人に向かって「や!」と声をかけ、手の甲を相手に向けて振りながら「ば!」と言う。彼は「おーい、バイバイ!」と言っているのだが、それを知らない人からは奇妙な姿に見えるだろう。しかし、近所の人は手を振り返したり、「廉ちゃん!」と返事をしたりしてくれる。

廉太郎、19歳。我が家の次男坊。重度の知的障害を伴う自閉症である。今春、特別支援学校高等部を卒業し、生活介護事業所に入所した。野菜作りや受注作業に取り組み、毎日元気に通っている。

母である私はこの春まで、公務員として32年間働いていた。廉太郎を1歳から預けた地元の市立保育園は、彼に加配の保育士を付けて、他の子と一緒に育ててくれた。

廉太郎に障害が見つかった時、私は保育園の保護者会で公表させてもらった。

園児からは、「廉ちゃんはどうしてしゃべれないの?」「病気なの?」とよく聞かれた。「廉太郎には、お話やいろんなことがうまくできない『障害』があるからなの。でもゆっくり話したり、一緒に遊んだりしてくれたら、廉太郎は嬉しいと思うから、よろしくお願いします。」と話すと、多くの子が「フーン、わかった。」と子どもなりに理解してくれた。

親御さんたちも、ごく自然に廉太郎を受け入れてくれていた。自閉症の記事を切り取って渡してくれる人もいた。感謝すると同時に、障害に関心を持ってもらえたことを知り、公表した意味があったと感じた。

小学校の就学にあたっては、特別支援学校を選択することも出来た。しかし私達夫婦は、廉太郎には兄と共に地域の中で育ってほしいと願っていたので、「兄と同じ地元の小学校に通わせたい」と校長先生に手紙を書いた。すると校長先生から「廉太郎君を待っていますよ。」と電話があった。温かい言葉に胸がいっぱいになり、電話口で泣きながらお礼を言ったことは生涯忘れられない。

入学後は特別支援学級に在籍したが、同学年の普通学級の保護者会には必ず出向き、挨拶をさせてもらった。

小学校時代は、市の学童保育にもお世話になった。そこでは、長男は周囲から「重度の知的障害児の兄」と認識されながら過ごした。急に奇声を発したり、飛び跳ねたり、大泣きしたりするのは、廉太郎の障害の特徴であるのだが、友達から「うるさいよ」「あっちへ行って」と言われている姿を見て、兄は「つらい。もう嫌だ。」と私に訴えることもあった。

しかし、市の心理相談員が何度も相談に乗ってくれた。学童の先生は、廉太郎が意思を伝えやすいように、写真や絵カードを手作りしてくれた。また、私と夫の両親が、子ども達のお迎えや病気の時の看護などの支援をしてくれたおかげで、息子たちは元気に育ち、私も仕事を続けることができた。

小学校で多くの地元の人に廉太郎を知ってもらえたと実感できたこともあり、思春期を迎えるにあたって、中学は専門的な教育を実施している特別支援学校に進んだ。支援学校では、高等部卒業まで手厚い教育を受けた。

今、苦労しているのが、廉太郎が病気や怪我をした時の病院選びである。障害の特性を理解し対応できる医院・病院はまだ少ない。地域の障害者の家族は、お互いに情報を教えあって、障害者を気持ちよく受け入れてくれる病院を探している。

情報を得て出向いた眼科は、自宅から車で一時間ほどの場所にあった。地域の一般的な眼科だが、県外からの障害者も多く来院しているのには驚いた。

廉太郎は、同じことを数回繰り返す、障害特有の「こだわり」を持っている。これは病気でいえば症状のようなもので、本人の意思で直せるものではない。眼科医に機械で目を診てもらったあと、彼なりのジェスチャ-で「もう一回診て。」とやっていたところ、そばにいた看護師が気づき、医師に伝えてくれた。医師は「じゃあ、もう一回診るよ。」と言って繰り返し、三回目で本人が納得して終えた。

廉太郎のこだわりに対し、医師から迷惑そうな顔をされたり、「早く診察室の外へ出して!」と看護師から叱責されたりすることはこれまで幾度となくあった。こだわりへの対処方法を説明する雰囲気すら持てないことが多い。しかし、この眼科の対応は、「また迷惑をかけるのでは」と毎日心配しながら過ごす、家族の心をも癒してくれた。障害者に寄り添う医療を、どの地域でも受けられるようになることを切に望む。

廉太郎は、言葉や文字では自分の気持ちを伝えられないので、「行動」で思いを表現する。家族への愛情もそうだ。全員が帰宅すると、彼は「ば!」と言って、手をつないで輪になることを要求する。つないだまま、歌に合わせて全員一緒にジャンプをさせる。何度もせがみ、家族が繰り返すたびに満面の笑みを浮かべる。彼が「おかえり、待っていたよ。みんな揃ったね。」と言っているのが表情から分かる。彼の笑顔は天下一品であり、家族の「明日へのパワー」となっている。

長男は、自分の帰宅を待つ弟を「ただいま」と言いながら毎日抱きしめる。今年、地元の成人式に出席した際、同級生に「廉ちゃん元気?」と聞かれ、嬉しかったと言っていた。

我が家を支えてきたものは、意思疎通が難しい廉太郎に対して偏見を持たず、許して受け入れてくれた地域の人々の存在だ。

心配は尽きない。それでも発語のない廉太郎が訴えるサインに気づき、足を止めて理解しようとする人が一人でも増えることを願い、今日も廉太郎と街に出ようと思う。

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所属課室:健康福祉部障害者福祉推進課共生社会推進室

電話番号:043-223-2338

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