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更新日:令和4(2022)年7月21日

ページ番号:518438

乾燥と過湿を防いで安定多収 促成トマト栽培の湿度管理

1.はじめに

近年、促成トマト栽培では炭酸ガス施用装置を導入し長期どりに取り組む生産者が増えてきました。長期に渡って草勢を維持し多収を得るためには、単に冬期に炭酸ガスを施用すればよいというわけではなく、一年を通して気温や湿度などの他の環境条件も合わせて適切に管理する必要があります。ここでは、長期どりに適した湿度管理について解説します。

2.湿度管理の考え方

(1)乾燥時は加湿が必要

日射が強く空気が乾燥している日には、トマトの葉はしおれ、垂れ下がりが見られます(写真1)。こうなると受光量が減るとともに炭酸ガスの取入れ口でもある気孔を閉じてしまいますので、光合成を十分に行うことができません。トマトの持つ光合成能力を最大限に発揮させるには、日中は相対湿度80パーセント程度(飽差で表すなら1立方メートル当たり3から6グラム)を目標に細霧装置などで加湿を行います。

高温乾燥時のトマトの葉のしおれ

写真1.高温乾燥時のトマトの葉のしおれ

(2)過湿時は反対に除湿が必要

一方で、低温期は、温室が密閉されて夜間に相対湿度が高まりやすくなります。特に暖房機の稼働時間が短い11月頃や3、4月は結露によって植物体が長時間濡れた状態になりやすく、灰色かび病などの病害が多発しがちで除湿が必要です。除湿を行うにはヒートポンプを用いる方法と、カーテンを開けながら暖房機を短時間稼働させることで外張りフィルムの内側面に結露させて空気中の水分を減らす簡易な方法があります。

3.湿度管理の実際

令和元年度に促成トマト養液栽培において湿度管理の効果を検証する試験を行いました。湿度管理区では乾燥時には細霧加湿を行い、夜間など多湿時には結露センサー付き複合環境制御装置を用いて暖房機とカーテン制御を行うことにより除湿しました。湿度管理区は葉のしおれが少なく栽培後半の草勢が維持されたため、果実肥大が良くなり1果重が増えました。そのため、2月以降の収量が大きく増加して、合計可販収量が10アール当たり28.3トンと無処理区に比べ17.5パーセント増加しました(表1)。また、冬期に発生が多い空洞果や日射が強い4月以降に発生が多くなる尻腐果は、湿度管理を行うことで発生果率が低下し、果実の品質の向上が認められました。

表1.促成トマト養液栽培における湿度管理による収量、障害果及び好湿性病害の発生(令和元年度)
試験区 総収量(可販)
(10アールあたりトン)
空洞果率
(パーセント)
5月の尻腐果率
(パーセント)
6月の尻腐果率
(パーセント)
7,8月の尻腐果率
(パーセント)
灰色かび病発病葉率
(パーセント)
湿度管理 35.2(28.3)  10.2 0.4 4.9 5.5 0.19
無処理 31.0(24.1) 22.3 2.9 6.5 6.9 0.75

注1) 湿度管理区の加湿には、株式会社いけうち製「セミドライフォグ®微霧冷房加湿システムCoolBIM®」と株式会社ニッポー製「飽差+」、除湿には鈴木電子株式会社製「まもるんサリー」を使用

2) 定植は令和元年8月29日、品種「桃太郎ネクスト」(タキイ種苗株式会社)、台木「TTM-079」(タキイ種苗株式会社)、収穫は令和元年11月5日から令和2年8月3日、灰色かび病は令和元年11月4日から2年5月18日の隔週15回調査の平均値

この試験結果を基に、湿度管理機器を導入した場合の経営収支の試算を行ったところ、初年度に10アール当たり198万円の設備投資が必要ですが、所得は年間約39万円増加しました。投資利益率を算出すると19.4パーセントとなり、装置の導入により促成トマトの収益性が向上することが確認できました。

4.湿度管理の留意点

この技術の留意点を挙げると、湿度管理をすることで全ての品種が増収するのではなく、乾燥時にも萎れが発生しにくい品種(例えば「麗容」(株式会社サカタのタネ)では、このような増収効果が認められません。増収効果は収量が一年の中で最も多い春以降の時期に顕著に表れますので、収穫作業労働力の強化が必要です。

また、高温期は加湿すると蒸し暑く作業環境が悪化するなどの課題もあります。実際に装置を導入するか、またいつ使用するかは、生産者のみなさんの栽培方法や経営に合っているかよく考えて、判断する必要があります。

 

初掲載:令和4年5月
農林総合研究センター
野菜研究室
室長 大木 浩
電話番号:043-291-9987

お問い合わせ

所属課室:農林水産部担い手支援課専門普及指導室

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