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更新日:令和5(2023)年1月16日

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キャベツ「初恋」におけるごま症の軽減

1.はじめに

「初恋」(株式会社トーホク)は5月下旬から6月どりキャベツに欠かせない主力品種ですが、収穫期が近づくと結球頭頂部に濃褐色から黒色の小斑点が多数発生する症状が見られ、現地で「ごま症」と称されて問題となっています(写真1)。本症状は、種苗会社の情報ではべと病によるとされるものの、現地では明確な対策がとられていません。そこで、平成29年度に銚子市農業振興会議(銚子市、JAちばみどり、海匝農業事務所、農林総合研究センターで構成)で対策に関する本格的な取組が開始されました。

写真1.「初恋」に発生するごま症の症状

2.殺菌剤散布の効果

べと病の症状とされるごま症に対し、殺菌剤の散布回数の影響を明らかにするために、フォリオゴールド(種類名:メタラキシルM・TPN水和剤)とダコニール1000(同TPN水和剤)を用いた試験を行いました。なお、今回の試験では、フォリオゴールド、ダコニール1000の散布を3回実施した区を設けましたが、両剤ともにキャベツへの散布回数は、2回以内、かつ両剤に含まれるTPNの散布回数は、合計2回以内の登録となっていますので、十分に注意してください。※農薬登録は令和4年12月現在

外葉形成盛期の5月1日には、べと病の発生度は、無処理区及びダコニール区の50程度に比べて、フォリオゴールドを散布した区は低く、フォリオゴールドの散布回数が多いほど低い傾向でした(表1)。無処理区、ダコニール区及びフォリオゴールド1回区では、上位葉に覆われた地際付近の葉にべと病の発生が多く観察されました(写真2)。この段階での地際付近の葉への農薬散布は困難ですので、早期からの防除が重要といえます。結球がMからLの出荷規格に達した6月1日には、結球部のごま症の発生度は、外葉部と同様で無処理区及びダコニール区の77、79に比べてフォリオゴールドを複数回散布した区は低い状況でした。結球がLから2Lの出荷規格に達した6月7日には、結球部の発生度は、フォリオゴールド2回区及び3回区ではそれぞれ30、17と微発生程度に軽減されたのに対し、他区では66から87であり、B品となる少発生以上の結球が多くなりました(表1)。以上のように、ごま症とべと病は、外葉形成期までにフォリオゴールドを複数回散布することで軽減されました。一方で、フォリオゴールドの混合成分であるTPNを有効成分とするダコニール1000では、登録適用外の3回散布でも軽減効果が認められませんでした。これらのことから、フォリオゴールドに含まれているメタラキシルMを含む殺菌剤の散布が、ごま症の防除に有効であると考えられました。

写真2.地際付近の葉に見られたべと病

 

表1.殺菌剤の種類・回数による「初恋」のべと病(ごま症)の発生度

表1

 

表1.殺菌剤の種類・回数による「初恋」のべと病(ごま症)の発生度
散布回数 3月27日(8日後)散布 4月8日(20日後)散布 4月20日(32日後) 5月1日べと病発生度 6月1日ごま症発生度 6月7日べと病発生度 6月7日ごま症発生度
1回     30 54 70 66
2回   19 27 34 30
3回 11 15 18 17
ダコニール 46 79 91 87
無処理       54 77 82 77

注1)●:フォリオゴールド(メタラキシルM・TPN水和剤)散布 ※播種後のキャベツへの使用2回以内
〇:ダコニール1000(TPN水和剤)散布 ※播種後のキャベツへの使用2回以内
注2)べと病は外葉部、ごま症は結球部の発生を調査した
注3)定植時及び4月8日の調査では、いずれの区も無発生
注4)発生度は、各区20株、4反復の発生の程度を多(出荷不能)、中~少(B品)、微、無に分類し、以下の式から算出した
発生度=(3xA+2xA+C)/3/調査株数×100 ただし、A:多、B:中~少、C:微の株数

 

3.べと病=ごま症であることの確認

ごま症がべと病の症状の一つであることを確認するために、べと病を防除した「初恋」の株と防除をしなかった「初恋」の株を設けて、べと病の発病葉や胞子懸濁液噴霧による再現試験を行いました。防除した株では、ごま症発生がわずかだった(ごま症発生株率:発病葉接種9パーセント、噴霧接種8パーセント)のに対し、無防除で接種した株では多くの株で、ごま症が再現されました(同100パーセント、50パーセント)。また、PCRによる検定では、べと病斑、上記接種試験で再現されたごま症部位、産地で自然発生したごま症部位のいずれからもべと病遺伝子が確認されましたが、無病斑の部位からは確認されませんでした。これらのことから、ごま症は、べと病の症状の一つであることが明らかとなりました。

4.ごま症(べと病)防除の要点

キャベツべと病は、気温が8から16度で葉が濡れている時間が長くなると感染しやすくなるとされます。春播き栽培では、生育前半がべと病の感染に好適な条件になりやすく、また、地床での育苗中はトンネル被覆を行うことから、湿度が高く、感染しやすい条件となります。さらに定植後にも、3から4月に降雨や霧が続いたときには感染の危険性が高くなります。ごま症(べと病)の防除には、これらの時期に予防的に有効な殺菌剤を散布することが重要です。

本試験では、メタラキシルMを含む剤が有効であることとともに、複数回の防除で効果が高まることも示されました。ただし、同一成分の連用は抵抗性発達の危険性があるため、必ずローテーション散布で防除しなければなりません。メタラキシルMを成分とするフォリオゴールド、リドミルゴールドMZを基幹的に用いつつ、現地で行ったアンケート結果で「以前ごま症(べと病)が発生していたが、現在は解決している」とした回答者で使用が多かった、レーバスフロアブル、シグナムWDGも活用して同一成分の連用を避ける必要があります。なお、フォリオゴールドはキャベツへの使用回数2回以内、リドミルゴールドMZはキャベツへの使用回数3回以内、メタラキシル及びメタラキシルMを含む農薬の播種後の総使用回数は3回以内です。※農薬登録は令和4年12月現在

5.おわりに

「初恋」は、早生性・斉一性に極めて優れた有力品種です。この品種の弱点と言えるごま症を克服することで、5月下旬から6月の安定出荷が期待できます。春播き栽培の生育前半は、害虫発生の少ない時期に当たるため、農薬の散布を怠りがちになりますが、ごま症(べと病)克服のためには、この防除適期を見逃さないことが重要です。

初掲載:令和2年1月
農林総合研究センター
水稲・畑地園芸研究所
東総野菜研究室
主任上席研究員
町田 剛史
電話番号:0479-57-4150

お問い合わせ

所属課室:農林水産部担い手支援課専門普及指導室

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