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更新日:令和5(2023)年12月7日

ページ番号:7419

高温水を用いた改植前のナシ白紋羽病対策

1.はじめに

白紋羽病は果樹の最重要病害のひとつで、病原菌は土壌中に長期間生存し、感染すると樹が衰弱し最終的には枯死します。防除は薬剤の土壌かん注処理が一般的ですが、効果が不安定であり、生産現場では慢性的な被害に悩んでいます。そこで、今回は高温水を利用した改植予定地における白紋羽病対策を紹介します。

2.高温水点滴処理で病原菌を殺菌

温水を利用した白紋羽病対策として、(国研)農研機構が中心となって開発した温水治療法があります。白紋羽病に感染した樹の株元に専用の温水処理機(写真1)を用いて50℃の温水を点滴処理し、樹体へ悪影響を与えずに白紋羽病菌を死滅もしくは減少させる技術です。

この温水治療法を発病跡地での改植時の白紋羽病対策に利用した高温水点滴処理技術が、千葉県を中心に開発されました。高温水点滴処理では60~70℃の高温水を定植予定地に点滴処理します。地温が上昇しにくい冬季でも行えること、より高い温度で確実に白紋羽病菌を死滅させられることにメリットがあります。

点滴処理範囲は1.5×1.5メートルを基準とし、処理時間は5~6時間、使用する水量は1平方メートルあたり350~450リットルを目安とします。ただし、地温の上昇程度は水圧や圃場の状況、土壌の種類によって異なりますので、処理中は地下30センチの地温を測定し、40℃前後に達するまで行います。処理終了後も地温はやや上昇し、その後数時間は維持されます。白紋羽病菌は40℃の環境が2時間持続するとほぼ死滅するため、これにより病原菌を死滅もしくは大幅に減少させることができます。

農林総合研究センターの黒ボク土の圃場では70℃、6時間の高温水処理で12月に地下50センチの地温を50℃程度まで上昇させることができました(図1)

温水処理機

写真1.温水処理機

地温推移

3.併用処理で病原菌の再侵入を防ぐ

しかし、高温水で病原菌を死滅させるだけでは、以下の理由で長期間の病害抑制効果は期待できません。

  • 熱による消毒は残効性がない。
  • 病原菌の活動を抑制する他の有益な微生物も死滅させてしまう。そのため、わずかに生き残った病原菌や、高温水点滴処理範囲外から侵入してくる病原菌が、かえって増殖する場合がある。

対策としては次の2点が考えられます。

(1)薬剤の土壌かん注

白紋羽病防除に広く用いられる保護殺菌剤フロンサイドSC(石原バイオサイエンス株式会社)500倍液を、高温水処理範囲内に土壌かん注します。本剤は病原菌を死滅させる効果はさほど強くありませんが、菌の活動を抑制する効果が高いことが確認されており、一度白紋羽病を死滅もしくは減少させた後に使用すれば、病原菌の侵入もしくは活動を2年間程度抑えることができます。

図2は、農林総合研究センター内の圃場(黒ボク土)で行った土壌の白紋羽病に対する抑止力を調査した結果です。棒グラフの値が高いほど白紋羽病の抑制効果が強いことを示します。フロンサイドは単独で用いるよりも、高温水点滴処理と併用した方が、土壌の抑止力が高くなることを確認しました。

病原菌の抑止力

(2)微生物資材の施用

高温水で死滅してしまった微生物の代替として、白紋羽病菌に対する抑制効果があるトリコデルマ菌を含んだ微生物資材を施用します。水和剤タイプのトリコデソイル(アリスタライフサイエンス株式会社)が利用しやすく有望です。微生物は時間が経つと減少してしまうため、定期的に施用を続ける必要があります。殺菌剤との併用はできません。また、微生物を利用した場合の抑止力の持続性についてはまだ検証しておりませんので、使用方法に関しては今後の検討が必要です。

4.白紋羽病防除は2段構えで

果樹栽培における病害の防除では、感染源となる病原菌を耕種的な方法等でできる限り取り除き、その後薬剤を利用し残った病原菌の活動を抑制することが基本となります。白紋羽病は病原菌が地中にあるため、取り除くことが困難なことが課題でした。今回紹介した方法は高温水点滴処理で病原菌を死滅させ、その後薬剤の土壌かん注で病原菌の侵入及び生き残った菌の活動を抑制させます。これにより、高い防除効果がより長く維持できると考えられます。

初掲載:平成29年10月

農林総合研究センター

果樹研究室

主任上席研究員

平井達也

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お問い合わせ

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