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更新日:令和7(2025)年9月22日
ページ番号:775705
令和7年5月20日に気象庁から発表された3か月予報では、東日本の6から8月の気温は「平年より高い確率50パーセント」、「平年並み30パーセント」となっており、今年も暑い夏が予想されています。本項では乳牛と温湿度の関係及び県内外でおこなわれている暑熱対策技術について紹介します。
図1は、千葉県における平均最高気温と牛群検定の日個体乳量の月別の推移です。4月をピークに気温が上がるにつれ、乳量が減少しています。令和6年4月と8月の乳量差はマイナス4.4キログラムと約14パーセント乳量が低下しています。
図1.平均最高気温と月別乳量の推移(令和6年)(PDF:66.4KB) (クリックすると大きな図が表示されます)
気象データ:気象庁HPの千葉市
また、注目いただきたいのが、乳量の低下が5月から始まっている点です。5月になると最高気温が25度を超える夏日も観測されます。泌乳牛は生乳を作るため、多くの飼料を消化・吸収し、その過程で多くの熱が産生されるため、他のステージの牛に比べ、暑熱の影響を大きく受けます。人と牛との適温の違いを理解し、早期から対策することが重要です。
以下に泌乳牛と気温の関係を示します。
※1:湿度を考慮した体感温度=0.35×乾球温度+0.65×湿球温度
乳牛は湿度の影響も受けやすく、人の不快指数と同様の指標として、温湿度指数(THI)が用いられます。THI早見表(表1)に示すように、体感温度同様、20度でも湿度が40パーセントを超えるとTHIが65を超え「要注意」に、25度では、湿度に関わらず「注意」に、梅雨明け後の30度を超える気温では、「警告」「危険」と牛にとって非常につらい環境となります。
表1.THI(温湿度指数)早見表(PDF:30.7KB)(クリックすると大きな表が表示されます)
引用:栃木県「乳牛の暑熱対策マニュアル」
猛暑・酷暑が続く近年、今まで以上に、暑熱対策が必要となっています。以下では、県内外で行われている暑熱対策と効果について紹介します。
ア 日射を牛舎内へ入れない
牛体や牛舎内に直接太陽光を当てると体温上昇につながります。特に朝、夕の太陽の位置が低い時間帯は、牛舎に日射が入りやすくなります。日射が牛舎内に入らないように寒冷紗、葦簀、グリーンカーテンなどを設置しましょう。
イ 屋根・壁からの熱の侵入を防ぐ
屋根や壁は太陽光に熱せられ、晴天時には50度以上になります。熱せられた屋根・壁からは赤外線が放射され、牛体温や畜舎の温度を上昇させます。屋根・壁の温度の上昇を抑える方法を紹介します(表2)。なお、高所作業のため、安全性に配慮する必要があります。ヘルメットや安全帯の着用を励行してください。また、年月の経過したスレート屋根は非常に脆く、屋根に上がることは危険ですので、専門業者に依頼するなどの対応をお勧めします。
表2.屋根における暑熱対策
対策 | 効果 | コスト | 留意点 |
---|---|---|---|
遮熱塗料(写真1) |
屋根裏温度10度程度下げる | 施工単価が1平方メートル当たり2,000から4,000円(材工込み) | 製品により耐用年数は異なり、5から10年の製品が多い。経年の汚れにより効果が減退する。 |
ドロマイト石灰 |
屋根裏温度を晴天で5度程度下げる※2 |
動力噴霧器での自家施工が可能で、材料費は1平方メートル当たり約60円 | 強アルカリ性で、屋根材によっては、屋根を痛める。3か月程度で剥離 |
屋根散水 (スプリンクラー・散水チューブ等) |
屋根裏温度を12度下げる※3 | 材料費50頭規模の牛舎で、材料費はは2万から4万円 | 井水など、安価に水が使える場合に有効。雨樋がないと、牛舎内の湿度が上昇 |
屋根裏への断熱材 | 材質、厚さにより効果に差があり | 市販の断熱材の自家施工も可能、材料費は資材により差があり | ー |
※2:鳥取県の取組参照
※3:栃木県の取組参照
遮熱塗料施工前の牛舎屋根 遮熱塗料施工後の牛舎屋根
屋根温度53.7度 屋根温度35.3度
写真1.遮熱塗料施工前後の屋根温度の変化(PDF:140.9KB)(クリックすると大きな写真が表示されます)
ア 送風の効果
風速毎秒2メートルで体感温度を8度、風速毎秒3メートルで10度低下させます。つなぎ牛舎では、1台当たり3頭(約4メートル間隔)の設置が基本となり、換気扇の設置高さは、安全性を考慮したうえで極力低い位置に設置することで、より強い風を牛に当てることができます。設置箇所から数えて3頭目をめがけて送風を行うのが理想的ですが、牛舎の構造に合わせて調整してください。また、県内では、効果を高めるため送風機を1台当たり2頭の設置や、送風機に帽子の鍔(つば)のような資材を付けている経営も見られます。図2は風速計を用いて、つなぎ牛舎の風速を測定した事例です。柱などの構造物があり、理想通りの送風機の配置はできませんが、おおよそ1台当たり3頭の設置をしています。測定の結果4分の3の牛床では2メートル以上の風速を確保できていましたが、4分の1の牛床、特に送風機の真下にいる牛は風速が弱いことが確認できました。送風機の角度の調整が必要な例です。加えて、送風機は、数年掃除しないと巻き込み防止ガードやフレーム、羽に埃が付着し、風速の低下や電気のロスに繋がります。(写真2) 設置角度の調整とあわせて掃除することで、風速がアップします。
図2.風速調査の結果(PDF:197.5KB)(クリックすると大きな図が表示されます)
写真2.埃の付着した送風機
イ 細霧による空気の冷却
細かい霧を畜舎内に噴霧、気化させ畜舎内の気温を下げる技術です。湿度の低い日中であれば、気温を5度程度下げる効果があります。一方、湿度の高い条件では、気温を低下させる効果は小さく、湿度を上げることとなり逆効果となってしまいます。湿度の上昇を防ぐため、換気を十分に行うとともに間欠運転や湿度の高い時間帯は運転を中止するなど、条件に合わせて運転を調整してください。
ウ 牛体散水(ソーカーシステム)
牛にシャワー状の水をかけ牛体を濡らし、風を当て気化熱で牛を冷やす技術です。牛から直接、熱を奪うので高い効果が期待できます。フリーストール牛舎では、搾乳前の待機場での散水も有効です。(写真3)つなぎ牛舎では、牛床ごとにノズルを設置し、専用の間欠運転システムで散水間隔を調整し、牛体を冷やします。
写真3.待機場での散水の様子
エ 毛刈り
体毛を短く刈ることにより、牛体からの放熱を促し、体温を下げる技術です。毛刈りは、手間のかかる作業ですが他県の研究結果では高い効果が示されています。平成11年の熊本県の試験では1頭当たり30分、費用として人件費含めて1,000円程度かかりますが、採食量の減退も抑えられ、毛刈りをしていない牛に比べ乳量が日量2.4キログラム増加し、その効果は8週間持続しています。全頭は難しいかもしれませんが、初産牛や夏に分娩する牛に絞って対策するのも効果的です。
夏場は、呼気や発汗による水分の蒸散量が増え、その分飲水も増加します。飲水量は暑熱期の日乳量30キログラムの牛で1日当たり120リットル必要です。搾乳牛の飲水のタイミングは搾乳直後や採食後に多くなるため、複数の牛が同時に飲水しても、供給できるだけの給水量が必要です。ウォーターカップでの改善策として給水管の大口径化、高い位置への給水タンクの設置などが有効です。
暑熱対策について牛舎環境の改善を中心に紹介しましたが、近年の酷暑夏を考えた場合、複数の対策を複合的に実施することが必要だと考えます。今回紹介できませんでしたが、添加剤の給与や給与方法の工夫なども重要です。それぞれの牛舎や管理方法にあった対策を考えてみてください。
暑熱対策について牛舎環境の改善を中心に紹介しましたが、近年の酷暑夏を考えた場合、複数の対策を複合的に実施することが必要だと考えます。今回紹介できませんでしたが、添加剤の給与や給与方法の工夫なども重要です。それぞれの牛舎や管理方法にあった対策を考えてみてください。
初掲載:令和7年6月
担い手支援課
専門普及指導室
上席普及指導員 野中 大輔
電話番号:043-223-2912
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