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更新日:令和5(2023)年11月30日
ページ番号:623771
発表日:令和5年11月30日
県立中央博物館
坂田 歩美(さかた あゆみ)県立中央博物館 研究員
佐土 哲也(さど てつや)県立中央博物館 共同研究員
岡 慎一郎(おか しんいちろう)一般財団法人 沖縄美ら島財団 総合研究所 動物研究室 室長
潮 雅之(うしお まさゆき)香港科技大学 助理教授
宮 正樹(みや まさき)県立中央博物館 主任上席研究員
掲載誌 『MethodsX』
論文タイトル Collection of environmental DNA from stemflow for monitoring arboreal biodiversity: preliminary validation using lichens
日本の国土の約3分の2は森林に覆われており、森林には微生物から大型生物まで多様な生物が生息しています。その森林内でも、林床(地表面)より高所にある林冠(太陽光線を直接受ける高木の枝葉が茂る部分)は生物多様性が最も高い場所とされています。林冠を構成する木々の幹や枝は、多種多様な地衣類や着生植物に覆われており、それらを餌や住処とするさまざまな生物が複雑な生態系を形成しています。
一方、この複雑な生態系は高所にあることから調査が難しく、研究例が乏しいため、林冠の生物多様性を網羅的に把握する迅速・簡便な調査法の開発が待ち望まれていました。
県立中央博物館の坂田歩美研究員は、同館の宮 正樹主任上席研究員が開発した、水を汲むだけでそこに生息する魚の種を特定できる技術(環境DNAメタバーコーディング法;多種同時並列検出法)をヒントに、木の枝や幹を伝わって流れる雨水(樹幹流)に着目。樹幹流を集めてそこに含まれるDNAを分析すれば、樹上に生息する生きものを検出できるのではないかと考え、共同研究を始めました。
樹幹流を効率的に回収するため、木の幹にゴムロープとガーゼを巻きつけ、そこを伝わって流れてくる樹幹流を集めました(図1)。ポリ袋にたまった樹幹流はそのままフィルターでろ過します。また、樹幹流が流れ落ちる過程でガーゼにひっかかった物質ももとは樹幹流に含まれていたものであることから、これも水に溶かし込み、フィルターでろ過します。これらのろ過した物質から環境DNAを抽出し分析したところ、樹上に生育する葉状地衣7種のうち6種を検出することに成功しました。さらに目視では確認できなかった2種を検出することに成功しました。
(図1)
樹幹流から環境DNAを集める方法
a. 樹幹流が流れ落ちる過程でガーゼにひっかかった大きめの物質
水に溶かしこんだ後、フィルターでろ過し、環境DNAを抽出、DNAを分析
b. ポリ袋にたまった樹幹流
そのままフィルターでろ過し、環境DNAを抽出、DNAを分析
今回の研究は、目視観察が容易な地衣類のDNAが樹幹流に含まれていることを、環境DNAで開発されたメタバーコーディング法を用いて実証しました。
今回開発した手法は、樹幹流を集めてろ過した後、DNAを抽出して分析するだけの非常に簡単なものです。従来の手法 (目視) では、労力と費用の点で実現できなかった樹上生物多様性のモニタリングが容易にできるようになったという点で画期的です。一方で、樹幹流は雨の日しか流れないことから、雨以外の日にも使える生物多様性モニタリング法を開発することは課題の一つです。
このモニタリングを実施することで、目視では確認できなかった林冠層に生育・生息する未知の種や、絶滅が危惧されている希少生物の発見などの契機となり、その保護・保全に大きく貢献できる可能性があります。また、誰でもできる簡便な方法でモニタリングを実施できることから、これまでにない大規模なモニタリングを同時多発的に実施できるようになります。これまで多くの謎に包まれていた林冠層の生物多様性が明らかになる日も近いかもしれません。
坂田 歩美(さかた あゆみ)県立中央博物館 生態学・環境研究科 研究員
菌類分類学(地衣類)を専門とし、房総の地衣類誌や、地衣類の多様性に関する研究などに取り組んでいる。地衣類は、千葉県内からこれまでに317種が確認され、33種の新種が発表されており、そのうち4種の新種発表などに関わった。地衣類は菌類と藻類が共生した複合体である。独特のおもしろい形態をしている地衣類の魅力を伝えるべく、観察会なども積極的に実施している。
県立中央博物館 研究員 坂田 歩美(さかた あゆみ)
電話 043-265-3111
メール a_sakata(アットマーク)chiba-muse.or.jp
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