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更新日:令和3(2021)年7月1日

ページ番号:7275

授乳期中における母豚への高蛋白質飼料の給与

1.はじめに

畜産総合研究センターでは平成20年度からランドレース種の系統造成を開始しています。

代表的な改良形質は次の4形質です。

  • 繁殖性として
    1. 生存産子数
    2. 3週時1腹総体重、
  • 発育性として
    1. 1日平均増体量
    2. 飼料要求率

これらについて、遺伝的能力を表す育種価を求め、能力の高い豚から次世代の種豚として選抜し改良を進めています。

このなかで、繁殖性の改良は今までのボウソウL3に比べ、初産時で生存産子数が0.6頭多い10頭、3週時1腹総体重が14キログラム多い70キログラムを改良目標値として設定しています。

2.系統造成中の繁殖成績と発育性

現在、第3世代まで改良が進んでおり、直近2世代の延べ96頭の初産時の繁殖成績を図1と図2に示しました。

生存産子数の分布のピークは、11頭で全体の19.8パーセントで、平均は10.1頭でした。3週時1腹総体重は、50キロ台と60キロ台がともに約30パーセントの分布のピークがあり、平均は64.1キログラムでした。

図1_初産における生存産子数の分布割合

図2_初産における3週時1腹総体重の分布割合

次に、これら種豚延べ24頭の2産目の成績を図3と図4に示しました。

2産目でも、生存産子数の分布のピークは11頭(25パーセント)ですが、初産よりもバラツキはやや少なく、平均は11.4頭と1.3頭多くなりました。3週時1腹総体重は70キロ台をピーク(29.2パーセント)とした分布となり、平均も73.5キログラムと初産よりも9.4キログラム重くなりました。

図3_2産目における生存産子数の分布割合

図4_2産目における3週時1腹総体重の分布割合

以上が、現在造成中の系統豚の現状です。

3.授乳期の飼料についての問題

生存産子数や1腹総体重が向上していますが「母豚はその能力を維持できるエネルギーや蛋白質、アミノ酸の要求量を果たして摂取できているか?」という問題があります。

特に、初産豚は飼料摂取量が経産豚に比べ少なく、授乳期中の母豚の体重の減少率が大きいことから、離乳後の発情再帰が経産豚と比較して遅れることなどが報告されています。

今回、系統造成の素豚をアメリカから導入しましたが、アメリカの農場での授乳豚における飼料の栄養価の平均は、可消化エネルギーで3500キロカロリー(TDN(可消化養分総量)換算で79.4パーセント)、CP(粗蛋白質)が19.7パーセント、リジン1.18パーセントとなっており、当センターで使用している市販の配合飼料に比べ、特にCP含量が高いことが認められました。

4.高蛋白質飼料の給与試験

そこで、市販種豚用飼料(CP15パーセント、TDN74パーセント以上、リジン0.71パーセント)を対照区とし、CP20.7パーセント、TDN76.3パーセント、リジン1.17パーセントの飼料を高蛋白質飼料区にしました。それぞれ供試母豚(LW)各3頭を用い、初産と2産次において授乳期間中の21日間に不断給与し、その飼料摂取量を測定しました。

この飼料摂取量から1日当たりのCP、リジンの摂取量を算出するとともに、離乳日から発情日(人工授精を実施した日)までを発情再帰日数として調査しました。

結果を表1、表2に示しました。

体重の減少率は、初産豚が2産目より大きく、また対照区が高蛋白質飼料区より大きな値を示しました。

発情再帰日数は、初産で対照区の1頭が16日と遅延しましたが、他は2産目も含めて4から5日以内に再帰しました。

発情再帰日数は、母豚の体重減少率との関連性が高いのですが、この大幅に遅延した個体は採食量が少なく、エネルギー、CP、リジンのすべてが要求量を満たしてなかったので、今回の試験では遅延の原因を明らかにすることはできませんでした。

なお、次産の総産子数への影響は、対照区、高蛋白質飼料区とも認められませんでした。

表1_母豚の哺乳成績及び飼料摂取量(初産)

 区分

対照区

高蛋白質飼料区

生存産子数

11.0

±0

11.3

±0.6

離乳頭数

10.3

±0.6

11.3

±0.6

3週時1腹総体重

キログラム

67.1

±4.8

70.5

±12.6

1頭当たりの日増体量

1日当たりキログラム

0.24

±0.03

0.23

±0.03

飼料摂取量

1日当たりキログラム

4.2

±0.6

4.3

±0.2

CP摂取量

1日当たりキログラム

0.64

±0.11

0.88

±0.04

リジン摂取量

1日当たりグラム

30.1

±4.6

49.7

±2.2

母豚の体重減少率

パーセント

10.6

±2.1

8.7

±5.4

発情再帰日数

9.3

±5.8

5.0

±0

 

表2_母豚の哺乳成績及び飼料摂取量(2産)

 区分

対照区

高蛋白質飼料区

生存産子数

10.3

±2.1

9.0

±1.7

離乳頭数

10.0

±0.6

9.0

±1.7

3週時1腹総体重

キログラム

76.3

±10.7

68.9

±16.4

1頭当たりの日増体量

キログラム

0.29

±0.03

0.29

±0.04

飼料摂取量

1日当たりキログラム

6.3

±1.0

5.8

±1.5

CP摂取量

1日当たりキログラム

0.92

±0.17

1.19

±0.32

リジン摂取量

1日当たりグラム

45.1

±7.3

67.4

±17.0

母豚の体重減少率

パーセント

6.9

±2.3

-0.3

±8.2

発情再帰日数

5.0

±1.0

4.7

±0.6

5.まとめ

今回の試験結果から、初産における飼料摂取量4.2キログラムは日本飼養標準の風乾飼料量5.35キログラムに比べ少ないことから、CP15パーセントの飼料ではCPやリジンの要求量を満たすことができないことが分かりました。そのため4.2キログラムの飼料摂取量でCP要求量を満たすには、飼料中のCPを19.0パーセントにする必要がありました(表3)。

このように、飼料摂取量の少ない初産豚などでは高蛋白質飼料の給与は有効であることが分かりました。

表3_授乳期における母豚のCP充足率が100パーセントになる飼料摂取量

 区分

飼料中のCP含量

12.5パーセント

15.0パーセント

20.0パーセント

母豚1日当たりの飼料摂取量(キログラム)

6.4

5.4

4.0

21日間の飼料摂取量(キログラム)

134.9

112.4

84.3

注)母豚の分娩後体重を200キログラム、哺乳子豚頭数を10頭と設定

今後は、このように改良された種豚の生涯生産性の向上を図る上で、現在のCPやリジンの要求量(飼養標準値)が果たして適しているのか、母豚の詳細な栄養試験が必要であると考えます。 

(初掲載平成26年1月)

畜産総合研究センター
養豚養鶏研究室
主席研究員
高橋圭二
(電話:043-445-4511)

 

お問い合わせ

所属課室:農林水産部担い手支援課専門普及指導室

電話番号:043-223-2911

ファックス番号:043-201-2615

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