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更新日:令和3(2021)年5月31日
ページ番号:7248
稲発酵粗飼料(イネホールクロップサイレージ=イネWCS)は稲わらに比べてβ-カロテン含量が高いため、高い脂肪交雑を狙うビタミンA制御型の黒毛和牛や交雑種肥育農家において肥育中期以降の給与を難しくしています。圃場におけるイネのβ-カロテン含量をモニターし収穫時期を適切に決定することは、効果的な肥育管理のために重要です。
β-カロテンの測定は分析の前処理が煩雑で時間を要し、サンプルの温度・遮光管理も必要とするため生産現場での迅速な対応は不可能です。しかし、植物体中のβ-カロテンは光合成に関与することから葉緑素含量と正の相関があります。そこで、イネの葉色から葉緑素を簡易測定するハンディタイプの葉緑素計SPAD-502(図1)を用いてβ-カロテン含量の推定を行いました。
平成21、23年度に実施した畜総研の栽培試験と香取農業事務所の調査研究で、品種、圃場、栽培年次、生育期の異なる延べ88点のイネをサンプリングし、そのSPAD値(SPAD-502による葉緑素含量の指示値)から、β-カロテン含量を簡易判定できる基準を定めたので紹介します。
A.上から3枚目の葉で測る方法(図2A)
生育が中庸な10株について、最長茎の止葉を第1葉とした場合の第3葉(以下で、上位第3葉と表記)の中央部で測定し、その平均値を用います(出穂前は最上展開葉から数えて2枚目の葉で測定)。千葉県水稲調査基準に沿った測定方法です。
B.最上位葉で測る方法(図2B)
圃場の生育が平均的な3地点から健全な最上位葉(止葉)を選び、葉身全長を約5等分して葉身5か所を測定した平均をそのSPAD値とし、さらに3地点の平均値を用います。三重県による方法(2003)で、最も上の葉なので測定が楽で早く行えるメリットがあります。
図1葉緑素計SPAD-502(協力:印旛農業事務所)
図2葉色測定葉・部位
SPAD値から回帰式によってβ-カロテン含量を推定することは、精度が十分でなく困難でした。しかし、上位第3葉の測定値が30以下であれば、そのイネはβ-カロテン含量が現物1キログラム当たり15ミリグラム以下、乾物1キログラム当たり40ミリグラム以下に低減していると簡易に判定されます(図3、図4の網掛け部)。これは、品種、圃場、栽培年次、生育期の異なる多様な条件下で適用可能です。
図3上位第3葉色による原物中β-カロテン含量の判定
※図3はここにカーソルを持っていき画像をクリックすると拡大表示されます。(JPG:66KB)
図4上位第3葉色による乾物中β-カロテン含量の判定
※図4はここにカーソルを持っていき画像をクリックすると拡大表示されます。(JPG:80KB)
図5最上位葉色による原物中β-カロテン含量の判定
※図5はここにカーソルを持っていき画像をクリックすると拡大表示されます。(JPG:83KB)
図6最上位葉色による乾物中β-カロテン含量の判定
※図6はここにカーソルを持っていき画像をクリックすると拡大表示されます。(JPG:79KB)
最上位葉の葉色測定によっても全く同様の判定が可能です(図5、図6の網掛け部)。全体的な精度は厳密には上位第3葉で測定したほうが高いと考えられますが、前記したとおり、実際に測定してみると最上位葉の測定は作業的に容易で早く終えるので簡便法としての価値があります。
葉色測定にあたって正確な数値を得るための留意点として、病害虫による被害や葉身組織の枯死・脱落のない健全葉によって行う必要があります。ただし、生育に伴う自然な枯れ上がりの場合はこの限りではありません。
稲ワラのβ-カロテン含量は現物中でも乾物中でも1キログラム当たりほぼ10ミリグラム以下(日本標準飼料成分表2009年版)ですが、今回示したβ-カロテン含量現物1キログラム当たり15ミリグラム(乾物1キログラム当たり40ミリグラム)という値はビタミンAに換算すると現物1キログラム当たり約6,000IUに相当します。肥育牛のビタミンA要求量を1日当たり20,000IUとすると、β-カロテン含量現物1キログラム当たり15ミリグラムのイネは1日当たり3キログラム給与で要求量の90パーセント強を占めることになり、決して低い水準ではありません(推奨給与法:表1)。
表1イネWCSの推奨される給与法(交雑種肥育の場合)
肥育前期 | 1日当たり7キログラム、飼料イネだけではビタミンAが不足するので牧草ペレット等を補給。 |
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肥育中期 | イネWCSは給与しない。稲ワラを給与する。 |
肥育後期 | 1日当たり3キログラムを上限として給与。 |
地域農業確立総合研究「関東飼料イネ」平成16から20年度:畜総研乳牛肉牛研究室
しかし、葉緑素計ではこれより細密なβ-カロテン含量把握は困難であるので、黒毛和牛や交雑種肥育を対象とした場合、最低限、SPAD値30以下でイネを収穫するという客観的指標としての活用が妥当です。また、イネは一般に生育とともに葉色の緑がさめ、SPAD値も低下していきますが、その程度は品種、肥培管理、気象条件等により異なり、生育が進んでもβ-カロテン含量が高いことがあります。そのため、SPAD値により客観的データとして把握する意義が大きいといえます。
葉緑素計は県内各農業事務所改良普及課に備えられており、県水稲調査基準に準拠して水稲の出穂までを中心に生育状況・施肥の判断に用いられています。飼料イネのβ-カロテン含量判定は出穂期以降の使用が中心であるので、圃場での有効活用が可能と考えられます。
初掲載:平成24年6月
畜産総合研究センター企画環境部
環境飼料研究室
室長 細谷肇
電話:043-445-4511
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