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ホーム > しごと・産業・観光 > 農林水産業 > 農林関係出先機関 > 農林総合研究センター > 森林研究 > 情報誌フォレストレター > フォレストレター35号(2003年11月)
更新日:令和4(2022)年2月14日
ページ番号:8432
県は、グローバル化や産業構造の変化など経済社会情勢の急激な変化に試験研究機関が柔軟かつ迅速に対応し、新たな社会システムの構築に向けて、県民ニーズを的確に把握し県民生活への貢献と産業振興により一層資するため、厳しい財政事情の中、緊急度や必要性を重視した研究事業精選型への移行、また、これからの研究活動を充実・強化し、効率的・効果的な試験研究を推進するという目的から、平成15年7月に千葉県試験研究機関の試験研究評価に関する指針を制定し、知事部局の11の試験研究機関に評価制度を導入しました。
森林研究センターは昭和38年に林業の振興及び森林環境の保全に寄与するため、森林に関する試験研究、調査並びに知識の普及を図る目的で設置され、この間今日まで、基礎研究から応用研究に至る数多くの研究成果と各種の調査結果を県民に提供してきました。しかしながら、これまで県民をはじめ外部の有識者による直接的な評価を受けるということはありませんでした。今回の評価制度導入により初めて有識者から評価をいただくこととなり、センター職員全員不安と期待が交錯するなか、評価に向けて鋭意準備に取り組んでいます。
評価制度の内容は、機関評価と課題評価に大別され、機関評価では研究活動、研究体制、業務、運営、施設整備等が評価の対象となり、3年から5年程度の期間を一つの目安として評価を受けることになります。課題評価はセンターにおける重点的な研究課題が評価され、原則として、事前、中間、事後の各時期に評価を受け、必要に応じて追跡評価を受けることとなります。評価の方法は評価項目、評価基準、評価手法等が具体的に明確に示され、外部からも実態がわかるように透明性のあるものとなります。
平成15年度の森林研究センターの研究課題は、農林業試験研究推進構想に基づくもの32課題、農林業未利用資源リサイクル研究開発事業等で12課題、要望課題検討会で採択された1課題の計45課題でありますが、一般的に森林・林業・木材等に関する試験研究は、その特質から長期間を要する課題が多く、いかに努力してもなかなか研究成果が表れにくい宿命を負っております。
しかしながら、評価指針の目的にも示されている経済社会の急激な変化に柔軟かつ迅速に対応し、県民ならびに社会に貢献する研究課題の精選と効果的、効率的研究により成果のスピード化も強く求められている現状に鑑み、当センターの遂行している研究課題の特質を乗り越える発想の転換と更なる努力、課題の精選も必要と考える次第であります。
有識者からなる評価委員の具体的な評価はこれからでありますが、今回の評価制度導入を契機に、森林研究センターがこれまで以上に真に県民、社会のために貢献できる試験研究機関として生まれ変わる大きな機会と認識し、民間企業、大学、公立研究機関との共同研究や研究の連携を一層進め、時代と環境の変化に対応した研究成果を提供してまいりたいと思いますのでご支援、ご協力をお願い申し上げます。
(センター長鈴木和彦)
中国東北部の吉林省でキノコ栽培を視察する機会がありました。吉林省の東はロシアとの国境、東南部は長白山脈を挟んで北朝鮮と接しており、緯度は北海道と同じです。今回、省都である長春市にある吉林農業大学のキノコ栽培施設、延吉市の栽培機器業者と栽培者、長白山のマツタケ山を視察しました。また、市場とレストランで食材としてのキノコを見ることができました。
吉林農業大学はキノコの研究に非常に力を入れています。管理者が常駐する栽培施設を学内に持ち、シイタケ、ヒメマツタケ、マンネンタケ、ヒラタケ、ヤマブシタケ、ナメコなどを常時栽培しています。研究はその栽培の流れに組み込まれています。延吉市では、キクラゲの収穫を見学し、シイタケの栽培方法とマンネンタケ栽培の現状について話を聞きました。
長白山でのマツタケ採取の季節は7月から9月上旬です。入山科として65万円を政府に支払い、期間中は、5人ほどが現地に寝泊りし、朝方3時間かけて採取します。マツタケ山の樹種は20年生のアカマツとミズナラで、林内は明るく、林床植生は少なく、歩きやすい林でした。このマツタケ山にミズナラと共生するバカマツタケも発生します。
中国ではキノコの消費が増えています。市場でのシイタケとナメコの値段は100g当たり9円、ヒラタケとタモギタケは5円で、饅頭が1個4円でした。昨年の中国都市部の年間所得は約9万円でしたが、これを日本の平均所得447万円に換算してキノコの値段を算出すると、中国で売られているシイタケは100gで450円、ヒラタケは250円と日本のそれぞれの販売価格160円、100円よりも割高です。一般のレストランでもキノコを使った料理がたくさんありました。吉林省ではキクラゲが特産品のひとつであり、茹でて大皿に盛り付け、日本のワサビ醤油をつけて食べる料理を数箇所で見ました。また、ヒメマツタケは日本では健康食品として主に抽出液や乾燥品として販売されていますが、中国では生で料理に利用されています。エノキタケをはじめとする他のキノコ類も妙め物などの材料として日本よりも大量に使われています。延吉市は長白山のふもとにあり、マツタケを日本へ輸出している店が多く見られます。中国ではマツタケは栄養が豊富な高級食材であるばかりではなく、せき止め、痛み止めに薬効があるといわれています。マンネンタケも古代より不老不死の薬といわれ、韓国、日本へ輸出されています。
中国の栽培で気づいたことは、栽培方法と機器の開発に非常に工夫がなされていること、自然環境を最大限に利用してコストをさげていることでした。日本のシイタケ袋栽培では、通常口が1箇所の袋に培地を詰めて滅菌し、種菌を接種します。ところが中国では、筒状のビニール袋の上下2箇所の口から接種する方法(写真1)、あるいは筒状の袋に50cmほどの長い培地をつくり、数箇所に穴をあけて接種後、他の袋でさらに覆うという方法がとられています。接種個所が多いほど培地に菌が早くまん延し、害菌の汚染も少なくなります。
栽培機器では、ドラム缶を利用した培地攪拌機、人力と最少限の電力を使った袋への培地詰機、布製の滅菌釜などにコスト削減の工夫がみられます。キクラゲの収穫には、畑に培地を置いて、スプリンクラーで散水しています(写真2)。シイタケ培地を地面に並べ、また、ヒラタケ、ヒメマツタケ、マンネンタケなどの培地を地面に埋めていました。いずれも安いコストで適温を保つ工夫です。日本では発生合などの施設の中で、温度と湿度も制御することが多いのですが、気候が冷涼でキノコ栽培に適していることに加えて、自然環境を効果的に利用しています。
マンネンタケ栽培者の話では、これまでトウモロコシで得ていた収入の50倍をキノコで得られるようになったとのことです。大学の研究者は基礎的な研究に加えて、実用的な栽培指導も行っており、栽培者から信頼されています、政府は大学へ研究費を助成し、研究者を保護しています。今回の視察をとおして、収入の増大を望む栽培者の意欲と研究者の熱意、そして安価な商品を高値で販売しようとする業者の利害が結びついたことが、中国でのキノコ栽培の拡大につながっているように思えました。
写真1
2箇所から接種されたシイタケ培地
写真2
地面に並べられたキクラゲ培地
(特用林産研究室寺嶋芳江)
環境機能研究室
里山は多様な生き物の宝庫であり、森林、谷津田、水辺等が一体となって美しい景観を形成し、人と自然とが共生する豊かな環境が保たれた貴重な財産となっていました。しかし、現在では生活様式や農林業形態などの変化により、かつての里山が失われつつあります。
里山の荒廃についてはこれまでにいろいろなところで話題になり、特に都市近郊では深刻な問題を抱え、その対策に苦慮しているところです。すでにご存知のように県では里山を保全するため、「千葉県里山の保全、整備及び活用に関する条例」(通称里山条例)を制定し、その対策を進めています。
市民活動も各地で展開され、県や市町村と連携した事業も進められています。これまでの里山の活動は休耕田の有効活用が中心となったものが多く、ビオトープの整備や、古代米栽培、稲作体験などが中心でしたが、条例制定と相まって森林そのものの整備や活用を目的とした活動団体も多くなり、インターネットのホームページでも盛んに紹介されています。ほとんどの団体では、特定の土曜日や日曜日に定例活動日を決めて活動していますので、是非参加してみてください。
当センターでもこうした活動を支援するため、里山に関する試験研究を進めており、特に今までの研究成果や各種の情報を整理し、「里山のタイプ別整備指針」を作成する計画を進めています。できるだけ多くの方から情報をいただき、いろいろな現場で活用していただける実用的な指針にしたいと思います。
貴重な里山を保全するため、皆さまのご協力をお願いいたします。
(富谷健三)
森林保全研究室
ヒメコマツは東北地方南部から九州の標高500m以上の山地に基本的に分布する五葉松ですが、房総では標高300~400mに生育するため、植物地理学的にも貴重なものといわれています。しかし、近年急激に減少し、確認されている自生個体は約80本ほどです。これは集団として存続していくためには危険な個体数であり、千葉県レッドデータブックで最重要保護生物である「A」にランクされています。
この保全に対する取り組みとして、平成13年度に自然保護課が事務局となって「ヒメコマツ保全に係わる協議会」が発足しました。これを契機として、東京大学千葉演習林、県立中央博物館、千葉エコロジーセンターなどの協議会の研究機関のメンバーと共同で保全の実務作業に取り組んでいます。その主な内容を紹介すると、
わずか二年足らずの取組みですが、保全対策は大きく進み始めています。
(遠藤良太)
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