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更新日:令和3(2021)年7月1日
ページ番号:7438
養豚排水に係る環境問題では、排水中に含まれる「硝酸性窒素等」の低減対策が近年では重要な課題となっています。「硝酸性窒素等」とは、アンモニア、アンモニウム化合物、亜硝酸化合物および硝酸化合物の総称であり、人の健康に影響を及ぼすおそれがある項目として水質汚濁防止法で規制されています。この項目の一般排水基準は1リットルあたり100ミリグラムですが、畜産では達成が困難なことから、現在暫定排水基準として1リットルあたり600ミリグラムが適用されています。しかし、長期にわたり暫定排水基準が適用されていることから、次期見直しにあたる平成31年6月には規制は厳しくなるおそれがあります。
そこで、当研究室では、養豚現場に導入が容易で、かつ硝酸性窒素等の低減に効果的な処理技術に取り組みましたので紹介します。なお、この技術は一般財団法人畜産環境整備機構畜産環境技術研究所、加藤産商株式会社および(国研)農研機構畜産研究部門との共同研究で実施しました。
この技術では硫黄脱窒法と呼ばれる方法に着目しました。硫黄脱窒法とは、排水中に存在する硫黄酸化脱窒細菌が無酸素条件下で硫黄を使って、硝酸性窒素等を窒素ガスに変えて除去する働きを利用したものです。そのため、この方法の利用にあたっては硫黄(脱窒用資材)が必要となります。
脱窒用資材には、市販の粉末硫黄(硫黄分99.5パーセント)をベースに、炭酸カルシウムと界面活性剤を配合した粉末状のものを新規に開発して用いました(写真1)。この資材を用いることで、硫黄酸化脱窒細菌の活性が高まり、高い窒素低減効果が得られることを確認しております。
写真1.開発した硫黄資材
処理装置には、土砂沈殿分離用に販売されているノッチタンク(2立方メートル容量)を用い、原水と硫黄資材の接触効率を高めるため、このタンクの第1区画内に塩ビ筒(直径30センチメートル、高さ200センチメートル)を設置しました(図1)。この装置は養豚汚水処理施設の後段に設置するもので、汚水処理施設から排出される活性汚泥処理水(以後、試験の原水とします)を装置に通水させることで、窒素の低減が可能となります。なお、資材投入量は500キログラムとして試験を行いました。
図1.処理装置の概要
試験では、原水を資材容積あたりの滞留時間0.7から1.5日で連続通水し、通年において処理効果を検証しました。その結果、原水の硝酸性窒素等の平均が1リットルあたり244.6ミリグラムに対し、処理水の硝酸性窒素等の平均が1リットルあたり88.5ミリグラムであり、その平均除去率は約65パーセントでした(図2)。
図2.原水および処理水の硝酸性窒素等の推移
※図2網掛け部分が本装置(図1)による処理効果を示します。
今回の試験で得られた知見から本技術の所要経費を試算しました。母豚100頭規模(排水量1日あたり10立方メートル程度)の経営において、1リットルあたり200ミリグラム(注1の硝酸性窒素等を1リットルあたり100ミリグラム以下に低減させる場合を想定すると、施設の設置費は約135万円(管材、電工費、施工費を含む)、ランニングコストは資材費と電力費で1日当たり約1670円と試算されます。
注1)当センターで実施した県内養豚汚水処理施設の実態調査結果(35箇所の硝酸性窒素等の平均1リットルあたり184ミリグラム)を試算根拠としました。
現在、硫黄脱窒処理に関する装置設計を確立するため、県内養豚農家の汚水処理施設に検証用ノッチタンクを新たに試作しました(写真2)。今後はこの装置を使って、運転・管理技術やコスト面を具体化してマニュアル化することで、早期の実用化・普及を目指します。
写真2.検証用ノッチタンク
初掲載:平成30年2月
畜産総合研究センター
企画環境研究室
研究員
長谷川輝明
電話:043-445-4511
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