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更新日:平成22(2010)年7月29日
『昔々、アラブの商人カナナさんが旅に出ました。途中で飲もうと、羊の胃袋でつくった水筒に山羊の乳を入れ、ラクダの背にくくりつけて持ってゆきました。
さて、旅の途中で喉が乾いたので、その水筒を開けてみると、出てくるのは水のように透き通った液体で、水筒の奥にはなにやら白く固まっているものがあります。捨てるのももったいないので食べてみるとなんともいえない美味しさでした。』

これが現在のフレッシュチーズのもとだといわれています。このお話には後日談もあり、洞窟で休憩したカナナさんがうっかり水筒を忘れて出発してしまい、何ヶ月か後に洞窟へ立ち寄って忘れていった水筒を開けてみると、固まった乳が芳醇な香りをはなっていたので、食べてみるとさらに熟成されたまろやかな味となっていました。これが熟成チーズの始まりとのこと。
実はチーズ作りの歴史は良くわかってはいません。しかし、聖書への記述やアリストテレスなどの著書にはチーズの記述や製法が書かれており、紀元前より人間はチーズを食べてきたようです。
この記事では、酪農家の皆さんだからこそできる自家消費用チーズづくりについてご紹介いたします。
チーズづくりを覚えて実践することで、皆さんは酪農経営における各作業の時間配分と家族の役割分担について考える機会が持てます。経営によっては作業効率が大きく改善されることも考えられます。チーズづくりが皆さんの経営の問題点を明らかにし、改善のお役に立てるだろうと信じています。
さて、酪農家の皆さんは普段どのように牛乳を食べていますか?ヨーグルト、牛乳寒天、カッテージチーズなどでしょうか?もちろんもっとレパートリーを持っている方もいらっしゃると思いますが、本格的なチーズ作りをされたことがある方は少ないと思います。ぜひこの機会に、フレッシュミルクが手に入る酪農家ならではのチーズ作りに挑戦してみませんか?チーズ作りは実際にやってみると奥が深く、自然界、特に微生物の力のすごさを身近に感じることができます。特に、温めて発酵させた牛乳に子牛の第四胃から採った酵素を加えて固まってゆく様子は生命の不思議としか言いようがありません。
では早速チーズをつくりましょう・・・といきたいところですが、一つとても大事なことをおぼえていただく必要があります。それは、ヨーグルトは高温殺菌された牛乳でも作れますが、レンネット※を使ったチーズは高温殺菌乳では基本的につくれないのだということです。液体の牛乳から作るチーズ(ここではレンネットを使うチーズのこと)はなぜ固まっているのでしょうか?実はチーズが固まる現象には、牛乳中の「遊離カルシウムイオン」が大きく関係しているのです。
生乳中に含まれるタンパク質の80%である「カゼイン」は、リン酸が結合した複合タンパク質です。牛乳中に丸い粒として浮かんでいる姿を想像してください。この丸い粒同士は電気的な作用で通常はくっつかない状態を保っています。いっぽう、生乳中に多量にあるカルシウムは、乳酸菌を加えて酸性になった牛乳ではカルシウムイオンとして多量に乳中に溶けている状態になります。
※レンネットとは子牛や子羊などの第四胃から抽出される凝乳酵素のこと。
レンネットの主成分キモシンは牛乳タンパクのカゼインの一部を分解する。

ここにレンネットを加えると、カゼインの一部が分解され、カルシウムイオンを仲立ちとして結合できるようになりチーズとして牛乳が凝固するのです。

ところで、だいたい75℃以上の高温殺菌をすると、カゼインに含まれるリン酸がカゼインからはずれてしまいます。このリン酸というのは、カルシウムイオンと非常に結びつきやすい性質を持っています。高温殺菌をした牛乳では、カゼインからはずれたリン酸とカルシウムイオンが非常に強い力で結合してしまうため、牛乳を固めるためのカルシウムイオンが不足してしまい、レンネットを加えてもカゼイン同士を結びつけるものが無い=凝乳しづらくなってしまうのです。

だから、添加物無しでチーズを作るには75℃よりも低い温度で殺菌した牛乳を使う必要があり、一般の人は値段の高い低温殺菌牛乳を買わなければチーズ作りを楽しむことはできないのです。唯一、いつでも好きなときに安価にチーズ用の牛乳が手に入るのが皆さん、酪農家なのです。
では、さっそくチーズづくりにとりかかりましょう
今回はいろいろと応用が利く「モッツァレラ」の作り方をご紹介します。用意するものは以下のとおりです。
※食用塩化カルシウム(カルシウムイオンが少なくて、固まりにくい牛乳が原料のときに使います)
※種菌(チーズを熟成させる場合にチーズに混ぜたり、表面に吹き付けたりして使います)
“チーズ作りは微生物の繁殖に最適な温度帯で行うため有害微生物の増殖にも注意しなければなりません。使う道具は必ず煮沸や殺菌用アルコールなどで殺菌することをおすすめします。”

バルククーラーにいれられた生乳を小鍋にとりわけましょう。
生乳を入れた小鍋は、お湯をはった大鍋で湯せんします。(直火にしない)
鍋の温度を常に見ていてください。殺菌のために乳の温度が63℃まで上がったら火を調節し、まんべんなくかき混ぜながら30分以上同じ温度を保ちます。湯せんに使っている大鍋の温度をチェックするのが牛乳の温度を一定に保つコツです。

低温殺菌した牛乳の入った鍋を34℃まで素早く冷まし、ヨーグルトを入れて34℃程度に火を調節しながら乳酸菌による発酵を促します。

ヨーグルト用の保温器具がある場合はそれを使っても良いでしょう。(温度はヨーグルトの種類によって違います。一般的に市販のヨーグルトはチーズ専用乳酸菌よりも温度が高めで発酵が促進されます)(もし、前の工程の生乳殺菌中に温度が上がりすぎてしまっていたら、カルシウムイオン補給のために牛乳に対して0.01~0.02%の「食用塩化カルシウム」を水に溶かして加えます。)
火加減を見ながら1時間程度、発酵に適した温度で保温します。

保温している間にレンネットを用意します。レンネットの入手方法は文末を参照してください。1リットルの牛乳に対しおおよそ0.003~0.004g使用します。2%食塩水にレンネットを溶かしておきます。
鍋の牛乳を良くかき混ぜ、流れが止まらないうちに用意したレンネットを加えます。豆腐のにがり打ちと同様、非常に大切な工程です。レンネットを添加した瞬間から牛乳は凝固を開始しますが、牛乳が鍋の中で動いていると塊がばらばらになってしまいますので、レンネットを入れたらすぐに動きを止めましょう。流れを止めたら温度を34℃程度に保ち30分以上静置します。この間絶対に動かさないでください。

30分ぐらい立って牛乳が固まったら、かたさを調べます。箸やスプーンの柄で固まった牛乳を掬い上げ、切れ目がパックリと裂けるようならばよく凝固しています。ボロボロとくずれたり柄にくっついてきたらまだまだなので、さらに20分ぐらい静置します。

この作業までは他の種類のチーズでも、例えばゴーダやカマンベールなどもほとんど同じです。固まった牛乳(カードと言います)は乳清(ホエー)をたっぷり含んでいて、まるでプリンのようです。このまま食べても、おぼろ豆腐のようで独特の風味がありますが、チーズと言うにはかなり水っぽい状態です。そこで、固まった牛乳から乳清を搾り出すために包丁やナイフなどで細かく切れ目を入れます。本格的にはピアノ線を張ったカードナイフ (カッター)でカッティングします。1~2cm角程度に包丁などで縦横に切れ目を入れ、しばらくおきます。

乳清が切れ目から滲みだして塊が浮き始めたら、ゆっくりと撹拌しながら鍋の温度を20分くらいかけて40℃まで上げます。温度を上げるとさらに乳清が分離するので、余分な乳清をくみ出してカードを保温できる程度の水位にします。

40℃に保温し続け2時間程度たったら塊を少し取り、80度のお湯につけてみます。引っ張って餅のように伸びたら、全体をザルにとり、乳清をすべて抜きます。(塊が伸びずにバラバラになることもあります。何らかの原因で失敗していることが考えられますので、モッツァレラは諦めて、ザルで水分を切りカッテージチーズとして楽しみましょう。)
別のバットや鍋などに80度のお湯を用意しておきます。塊を用意しておいた80度のお湯の中でまとめ上げながら練ります。
好みのねばりに練りあがったら、もちを丸める要領で冷水にひねり取ってゆきます。
別に用意しておいた20%の食塩水に約15分漬けます。
食塩水から揚げて布で水気を拭き取ったら、冷蔵庫に1日程度入れて塩をなじませてから食べましょう。
チーズ製造の原理とモッツァレラの工程はいかがでしたでしょうか?カッコ内の時間は目安として記載しましたが、生乳の殺菌を前日におこなったり、家族で作業を交代することでも製造時間の効率化がはかれます。
日本各地で、チーズづくりをしている酪農家が増えています。チーズづくりにチャレンジすれば、現在の飼養管理にかかる時間配分と家族の役割分担を見直すきっかけとなりますし、自分の生産した牛乳の利用法を購買者に対して提案できる経営者としての力が付くことでしょう。チーズづくりを実践することは皆さんの経営改善に必ず役立つものと信じています。なにより、自分の商品がもつ無限の可能性に対して大きな自信と期待が持てるはずです。酪農家だからこそできる贅沢な牛乳の食べ方、ぜひチャレンジしてください。
今回ご紹介した工程は私が作っているチーズの例です。実際には、気温、材料の鮮度などで温度や時間が変わってきます。何回も試してみてオリジナルの工程表を作成してみてください。
なお、この記事では販売用のチーズを想定しておりません。チーズを作って販売するには、営業許可が必要です。詳しくは管轄の保健所にお問い合わせください。
《レンネットや乳酸菌、カビ種菌の入手について》(敬称略)
(株)野澤組の輸入している製品を「財団法人 蔵王酪農センター」の工場から購入させていただくことができるそうです。ただし、菌は生ものですので、使用する1週間前には購入の申し込みが必要とのことです。
問い合わせ先 財団法人 蔵王酪農センター 0224-34-3311(代表)
私も使っていますが、インターネット上で「モッツァレラチーズ・キット」を販売している業者もありますので利用してみてはいかがでしょうか。
フィールドノート6月 畜産
千葉農林振興センター振興普及部
改良普及課 市原グループ
普及指導員 伊藤禎昭
TEL 043-300-0950
掲載日:平成20年5月30日
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