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ホーム > しごと・産業・観光 > 農林水産業 > 農林関係出先機関 > 農林総合研究センター > 森林研究 > 情報誌フォレストレター > フォレストレター31号(2002年7月)
更新日:令和4(2022)年2月14日
ページ番号:8428
4月の異動で初めて森林研究センターに赴任しましたので、私なりの研究センターの使命・役割りについて考えてみます。
林業の長期に亘る不振により、森林の手入れさえままならない深刻な状況にあるなか、研究機関は何を主眼として研究・開発に取り組むのか非常に難しい時代ではありますが、昨年7月国では、森林・林業行政の基本である「林業基本法」、「森林法」の一部改正がなされ、森林・林業の新たな進むべき方向が示されました。
森林の有する多面的な機能の発揮と林業の持続的かつ健全な発展を基本理念とし、森林を「水土保全林」、「森林と人との共生林」、「資源の循環利用林」の3つに区分し、区分に応じて効率的な森林施業を推進する森林計画制度が平成14年度からスタートしましたので、当研究センターの取り組む研究課題も柔軟な変化対応が必要だと思います。
このため、これまでの研究成果に甘んじることなく、今後、更に期待され、存在感のある研究センターを目指し
等を念頭に置き、センターの運営に努力いたしますのでご支援、ご協力をお願い申しあげます。
こうした理念のもと平成14年度に取り組む主な研究課題についてご紹介させていただきます。
地球規模での環境保全が叫ばれている今日、森林・林業の果たす役割りは益々多様化かつ重要視されておりますが、こうした時代こそ、研究機関としてのセンターの使命・役割りが強く求められていると認識し、二一ズに応じた研究成果をできるだけ早く出したいと心がけてまいります。
また、平成15年春季に本県で開催される第54回全国植樹祭において、天皇、皇后両陛下がお手植え、お手まきをなされます苗木と種子の育成・保存管理及び参加者の記念植樹用苗木の養成も極めて重要な業務でありますのでセンター一丸となって取り組んでまいる所存であります。
(センター長鈴木和彦)
太陽熱を利用して木材を乾燥させる小規模な装置が完成しました。「装置」とはいっても、これは棟高3.7m、軒高2.2mの片流れ屋根の、建て面積16m2余りの木造の建物です。(写真参照)
装置は2つの集熱室と1つの乾燥室から成り、集熱室において太陽熱で空気を温め、この空気を乾燥室内に循環させて木材を乾燥させるものです。設置にあたっては、「乾燥所要時間は長くても構わないから、出来るだけ安く乾燥できる装置」を基本としましたが、雨季対策として補助熱源を、また、乾燥室内の湿度が下がり過ぎないように加湿装置を備えました。
装置は北海道林産試験場が開発したものを参考にしました。
建物の4つの壁は断熱性をよくするために内層を構造用合板、外層を構造用合板+板材、中間層には断熱材を入れて作りました。
南に面した壁の外側には、軒から斜め下方に床面にまで達する透明な合成樹脂製の板を貼った壁を作り、この壁と建物本体の壁とで三角形の空間を作ります。この空間が、外から取り入れた空気を温める「集熱室」となります。
南に面している片流れの屋根は、透明な合成樹脂製の板で葺きます。この透明な屋根と壁・天井裏とで囲まれた三角形の空間も、太陽光を受けて空気を温める「集熱室」となります。
集熱室で温められた空気は、ファンで乾燥室内を循環した後、排気されます。
乾燥室は、間口2.6m、奥行き4.4m、天井高2.1mの直方体の空間で、ここに乾燥させる材を置きます。12×12×400cmの角材ならば100本程度人れることが出来ます。
乾燥させる材は、台車に載せて乾燥室に出入りさせます。そのため、乾燥室内の床と室外の土間はコンクリートで作り、台車用のレールを敷設しました。
補助熱源は、製材廃材を水冷式焼却炉で燃やして湯を沸かし、この湯を温水ヒータに導いて放熱させ、温風を乾燥室内に循環させるものです。ここ2年ほど農業用ビニルハウスを使って木材を乾燥してみたところでは、年間150日程度は雨や曇りで十分な日照が得られないと判断されました。そこで、製材廃材のうち利用には向かない低質なものを、主として雨季に、補助熱源として利用しようと考えたのです。
また、先のビニルハウスでの乾燥では、真夏の晴天時にはハウス内の湿度は40%程にまで下がってしまい、材には乾燥割れが発生しました。そこで、この乾燥装置には、高めの湿度を維持して乾燥割れを少なくするように、超音波式の加湿器を備えました。
以上が太陽熱利用木材乾燥装置の概要ですが、これから1・2年かけて、主に心持ち角材を使用して、梅雨や秋の雨期、夏・秋・冬の青天期をねらって乾燥試験をし、乾燥所要日数や仕上がり状態を調べることにしています。
(環境機能研究室長谷川忠三)
環境機能研究室
森林の有する保健休養機能に、人の心身をリラックスさせるアメニティ効果があります。このアメニティを具体的に数量化して現すため、森林研究センターでは「森林景観主体による心理的アメニティの評価表」を作成し、評価の総合得点からアメニティのランク付けを行いました。人が感じるアメニティは、見慣れていた森林や農地、河川などの自然環境が改変され、人工化していくことが大きく影響するようになります。
アメニティのランクの高い地域は、森林や農地が多く河川も自然の形態で、人の目で水平的に見て割り出した緑視率は50%以上あります。開発等により緑視率が50%以下に減少し、人工建造物が増えてくるとアメニティは低下しランクも下がります。また、人はアメニティを五感で感じます。その中でも視覚は最も大きく影響します。森林の色は緑色系が主体でその形もさまざまであり、それが人の目に優しい印象を与え疲れを療します。一方、人工建造物の形は明確なため、周囲から浮き上がって認識されるようになります。その色が鮮やかなほど視覚を強烈に刺激し、目の疲れや脳の混乱を生じて、アメニティを低下させる要素になります。
(高橋美代子)
環境機能研究室
平成7年3月に森林研究センター上総試験地に造成したスギ・ケヤキ混交試験林のその後の成長について報告します。この試験林は、木材生産機能が高く、生物多様性の高い山づくりの技術開発を目的に設置したものです。植栽方法は、ヘクタール当たり2,500本のスギの中にケヤキを単木および5本巣植えで同時に植栽するという方法です。植栽から7年が経過した現在の樹高は、スギが5.7m(当初0.7m)、ケヤキが5.4m(当初1.0m)となり、若干スギが優勢になりつつあります。ケヤキを育成する上で重要なことは、枝下の幹部分を通直で長く太くすることです。また、ケヤキをスギと混交させることの目的は、スギとの競争により枝下の長い通直な幹を得ることにあります。これらの点から見ると現在のケヤキの状況は、周囲のスギとの競争により枝張りが抑制されて枝下が長くなりつつあり、目的に合った成長をしているとみることができます。なお、今後の管理については、ケヤキがスギに被圧されないようにスギの密度を調整し、ケヤキの校下高を4m以上確保した後に周囲のスギを間伐して樹冠を展開させ、ケヤキの直径成長を促進させることが必要と考えています。
(福島成樹)
森林保全研究室
マンサクの黄色い花は早春のまだ冷たい空気によく映えます。しかし最近このマンサクに、各地で急激な葉枯れ症状が発生していることがわかりました。千葉県ではマンサクは自生していないので、見られるのは庭や公園、樹木園などに植栽されたものです。県内では公園などに問い合わせたところ、成田市でこの症状が認められました。
発生時期は、関東地方の場合5月の連休明け前後に多いようです。症状は、はじめに葉柄に近い部分から壊死し、葉全体に進行し、症状の激しいものは枯死に至ります。最初は一部の葉に枯れが見られ、急激に広がる様子が観察されています。
現在の全国的な調査では、北は福島県まで、南は高知県まで被害が報告されています。山林に自生しているマンサク類が大量に枯死すると、その葉をたべている蝶など昆虫に及ぼす影響も心配されています。
被害葉から病原菌が検出され、その菌が原因かどうか現在接種試験により究明されつつあります。県内でこのような症状を見られた方はご一報ください。
(中川茂子)
特用林産研究室
品質の良い大粒のクリを継続して生産するために、整枝・剪定はかかせない作業です。この剪定枝を有効利用するため、冬期に剪定した枝を用いてシイタケ、ナメコ、クリタケ、マイタケの原木栽培試験を行っています。栽培方法はシイタケがヨロイ伏せ、ナメコ、クリタケが覆土伏せ、マイタケが殺菌原木を用いたもので、マイタケ以外は直径4~8cmの細枝を使用しました。植菌が1999~2000年ですから、まだ2年間の収穫調査ですが、概要をご紹介します。
シイタケ、ナメコでは対照のコナラに比べ、心材の少ない枝で発生量が多く、心材の多い枝で少ない傾向が見られました。また、品質面ではシイタケが小型になりやすく、ナメコも淡い色になりやすいようです。クリタケ、マイタケでは全て心材の多い枝で試験をしましたが、対照のコナラと同等の発生量でした。
以上の結果から、クリ剪定枝は心材の割合によってキノコの発生に影響の出る種類があるものの、利用可能だと思われます。しかし、クリはキノコにとって分解・利用が困難な心材の割合が多いため、ほだ木の寿命が短いとも言われていますので、引き続き調査していく予定です。
(岩澤勝巳)
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