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更新日:令和3(2021)年11月4日

細胞治療開発研究部

  ヒトの細胞には、細胞の設計図や細胞が機能するためのプログラムが書き込まれた「ゲノム」が備わっており、この設計図やプログラムを元に新しい細胞が作られ正しく機能します。しかし、がん細胞ではこのゲノムが壊れてしまい、正しい細胞を作ったり、細胞が正しく機能したりすることができなくなっています。私たちのグループでは、がん細胞の設計図の間違った部分を見つけることで、がんの原因を探り、新たな治療法に繋げることを目指したいと考えています。

 ゲノムというと無味乾燥なATGCという4つの文字の単純な配列と考える人も多いかもしれません。ゲノム解析研究は、配列を読むだけで学問的な面白さが無いと思う人も多いと思います。しかし、人のゲノムは30億塩基対という膨大な量であり、また様々な機能単位や、さまざまな配列の特性(繰り返し配列であったり、ランダムな配列であったり)などが非常に複雑に絡み合った構成をしています。一口に繰り返し配列と言っても、繰り返し単位が小さいものから大きいものまで様々ですし、その成り立ちも同じ配列の重複によるものや、トランスポゾンなどのいわゆる「動く遺伝因子」によるものなど様々です。そのような複雑なゲノムの構造を深く理解することで、初めてがんの原因となるようなゲノムの異常を見つけることが可能になります。科学的な研究として非常にやりがいのある領域です。

 次世代シーケンサーの技術が発達し、ゲノムの配列決定が比較的容易に出来るようになりました。患者様の腫瘍のゲノム配列を調べ、効果の期待される薬剤を選択する治療も実際に行われています。例えば、がん細胞で異常な活性化をしている酵素があれば、その酵素の阻害剤が治療に用いられます。また、近年注目されている免疫チェックポイント阻害剤などの免疫療法についても、ゲノム解析は治療の効果が得られるかどうか予測するための非常に強力なツールとなっています。ゲノム解析で変異が多い症例では免疫チェックポイント阻害剤が有効ですし、特定のゲノム異常を持つ症例では免疫チェックポイント阻害剤があまり効果的で無いことも分かってきました。このように、ゲノム解析を進めることで臨床の現場で有用な知見を得られる可能性がますます高くなっていると言えます。

 がんゲノム解析研究は科学的研究対象として大変興味深いだけでなく、がん医療の現場においても有用な知見をもたらすことが出来る意義深い研究と言えます。ゲノムの特性を深く理解し、それに基づいたゲノム解析を行うことにより、未だ明らかで無いがんの病態の理解を目指したいと考えています。

 

1)ロングリードシーケンサーを使った大腸がんのHLA変異解析

ロングリードシーケンサーを用いてHLAクラスI遺伝子の変異解析を行い、マイクロサテライト大腸がんの免疫状態の詳細を明らかにしました (文献外部サイトへのリンク)。


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1 マイクロサテライト不安定性大腸がんの免疫・ゲノム解析

HLAの機能喪失の程度を定量化し、リンパ球浸潤の程度も加味して免疫状態を4つに分類した。分類1はリンパ球浸潤が多いもの、分類2はB2M遺伝子変異によりHLAの機能が喪失したもの、分類3はHLAクラス1遺伝子変異によりHLAの機能が喪失したもの、分類4はそれ以外とした。分類4ではHLAクラスI遺伝子の機能喪失変異はないものの、HLAクラスI遺伝子の発現が低下していた。(プレスリリース外部サイトへのリンク)

 

2)ロングリードシーケンサーを使った乳がんの転写産物解析

ロングリードシーケンサーを用いて細胞中の転写産物を詳しく調べる方法を開発し、乳がんの臨床検体を解析して乳がんの病態に関わるような特殊な融合遺伝子や細胞形態に関わる遺伝子の新規の転写バリアントを発見しました (文献外部サイトへのリンク)。

 

メンバー

部長 河津 正人
研究員

盛永 敬郎

 

 

最近の主な業績

  1. Yasuda T, Sanada M, , et al. Two novel high-risk adult B-cell acute lymphoblastic leukemia subtypes with high expression of CDX2 and IDH1/2 mutations. Blood 2021, in press, doi: 10.1182/blood.2021011921.

  2. Tanaka Y, Chiwaki F, Kojima S, , et al. Multi-omic profiling of peritoneal metastases in gastric cancer identifies molecular subtypes and therapeutic vulnerabilities. Nat Cancer 2021, in press, doi.org/10.1038/s43018-021-00240-6.

  3. Chida K, Kawazoe A, Kawazu M, et al. A Low Tumor Mutational Burden and PTEN Mutations Are Predictors of a Negative Response to PD-1 Blockade in MSI-H/dMMR Gastrointestinal Tumors. Clin Cancer Res 2021, 27, 3714-3724.

  4. Kumagai S, Togashi Y, Sakai C, Kawazoe A, Kawazu M, et al. An Oncogenic Alteration Creates a Microenvironment that Promotes Tumor Progression by Conferring a Metabolic Advantage to Regulatory T Cells. Immunity 2020, 53, 187-203.e8.

  5. Tateishi K, Miyake Y, Kawazu M, et al. A Hyperactive RelA/p65-Hexokinase 2 signaling axis drives primary central nervous system lymphoma. Cancer Res 2020, 80, 5330-5343. (Co-first author)

  6. Namba S, et al. Differential regulation of CpG island methylation within divergent and unidirectional promoters in colorectal cancer. Cancer Sci 2019, 110, 1096-1104. (Corresponding author)

  7. Sato K, , et al. Fusion kinases identified by genomic analyses of sporadic microsatellite instability-high colorectal cancers. Clin Cancer Res 2019, 25, 378-389. (Corresponding author)